幸代と瀬奈-5
素顔の瀬奈は屈託のない可愛らしい女性だった。年下の自分をさんづけで呼ばれるのは忍びないとの事で幸代はちゃんづけで呼ぶ事にした。
「私ね、お兄ちゃんがいるんだけどね、本当は妹が欲しかったの。瀬奈ちゃんみたいな可愛らしい妹がね!」
「私は一人っ子だからお姉ちゃんが欲しいってずっと思ってました。幸代さんみたいなカッコイイお姉ちゃんいたら楽しかっただろうなぁ。」
「じゃあ友達でありながら姉妹みたいな、そんなお付き合いしようよ。」
「ハイ!」
不思議と2人は気が合うみたいだ。海斗は何となく置いて行かれているような寂しさを感じたりした。
「じゃあ俺はお兄ちゃんか!?」
2人はじっと海斗を見つめた。
「こんなお兄ちゃん、嫌だよねぇ?」
「お兄ちゃんって感じじゃないですよね〜。」
流れで盛り上がれるかと思いきや冷静に対処されてしまい浮いてしまった。その後、2人のガールズトークについて行けずにひたすら2人の会話を聞き頷く事しか出来なかった海斗。しかし自分と話す時とはまた違った表情を見せる瀬奈に、幸代と会わせて良かったなと思った。そしてまた幸代も会社とは違う姿を見せてくれた。仕事での幸代だけが本来の幸代の姿ではないんだなと気付かされもした。
「あ、もうこんな時間だ…。私帰るね?」
「悪かったな幸代。」
「いいえ〜。じゃあ日曜日ショッピング行こうね?」
「ハイ!楽しみにしてます。」
そう言いながら寂しげな顔を一瞬浮かべた瀬奈を海斗は見逃さなかった。玄関から表へ出て車を走らせた幸代にいつまでも手を振っていた。
「海斗…、私にあんなに正面からぶつかってきてくれた人、2人目。海斗と幸代さん…。私、生まれ変われるかも…。あの日死ななくて良かった…。死ぬ事以外にあの苦しみから抜け出せる道を私は見つけたかも知れない…。」
とても良い表情を浮かべてそう言った。
「おまえは一人じゃないんだよ。もう。」
海斗は瀬奈の頭を撫でて家の中に入ったのであった。