幸代と瀬奈-3
自分は男のくせに何て情けないんだ…、海斗はただ2人を見つめている事しか出来ない自分をそう思った。それに比べて瀬奈に立ち向かいじっと目を見つめる幸代が頼もしい。瀬奈も幸代の目を見つめながら涙を零していた。奇妙なのは表情が変わらない事であった。瀬奈は泣いてはいない。ただ目から涙を零しているのであった。
「瀬奈さん、友達になろ??」
幸代は優しく語りかける。
「友…達…」
瀬奈は頭の中でこんがらがった糸をゆっくりと解いているかのように見えた。錯覚と現実の糸をゆっくりと解いている。
「ダメかな…?」
まだ情緒的に不安定な瀬奈。しかし錯覚に支配され周りが見えない状態ではない。目の前で自分を助けてくれようとする優しさも見えている。その優しさが少しずつ錯覚を消していってくれるのを瀬奈は感じていた。
「私と…友達に…?」
「うん。」
しっかりと目を見据えて瀬奈に語りかける。
「私みたいな頭がおかしい人間と友達になって…、あなたは…」
「頭がおかしくなんてないよ。ほら、今あなたは私とちゃんと話してる。瀬奈さんは精神的に不安定なだけ。私をちゃんと見て瀬奈さんに危害を与える人間じゃないと分かってくれれば心が落ち着くはずよ?私、瀬奈さんとお友達になりたいの。あなたを理解したい。」
「幸代さん…」
幸代はゆっくりと瀬奈に歩み寄る。少しは怖い。いつまた錯乱するか分からないからだ。しかし幸代はじっと目を見つめながら瀬奈に歩み寄る。
「女の子の気持ちは女の子が一番良く分かるの。私はあなたの苦しみを分かち合いたい。ううん?楽しみも分かち合いたい。私、不器用だけど、でもあなたが苦しんでるなら私は知らん振りできない。優しさとか愛情とか、私は伝えるの苦手だけど、でも傷つけるような事はしない。私を信じて欲しいの。私もあなたを信じるから…」
「わ、私を信じてくれるの…?旦那も、病院の先生も、誰も私の事を信用してくれなかったんだよ?親さえも…」
「私は信じる。それに私にはあなたを苦しめたり傷つけたりする理由がない。信じる事から始めようよ。瀬奈さんは1人じゃないんだよ?そりゃあ私なんか頼りないかも知れないけど…。」
「そんな事ない!私なんかを信じてくれるなんて…、私…。信じて欲しかった…。私の言葉、気持ちをずっと信じて欲しかった…。でも誰も分かってくれなかった。私は信じて欲しかった…。ずっと…。嬉しいです、幸代さん…。ありがとう…。幸代さん…私からお願いします。お友達になって下さい。宜しくお願いします…。」
瀬奈は正座をし、額を床につける。
「や、やめて…!?」
慌てて瀬奈を抱き上げる。瀬奈の体を起こしギュッと抱きしめた。
「幸代さん…」
目から零れる涙の温もりが瀬奈の苦しみを少しずつ溶かしていくのであった。