幸代と瀬奈-2
幸代は恐怖で体が動かないのか分からないが直立不動で瀬奈を見ていた。
「何よその目は!!いくら努力しても旦那の心をものにできない私を哀れんでるつもり!?勝ち誇ってるの!?」
ますます興奮する瀬奈はゆっくりと幸代に近づいて来る。
「せ、瀬奈…!」
しかし体が動かない海斗。情けない程に足が動かない。そうしている間にも瀬奈は幸代に迫る。
「私を馬鹿にしたような目で見ないで!!」
瀬奈は気が狂ったかのような甲高い声を叫びながら幸代に向け拳を振り上げた。海斗がヤバい、そう思った瞬間、幸代が瀬奈の声にも負けないような甲高い声で叫んだ。
「私はあなたの敵じゃない!!」
その瞬間、あの瀬奈が圧倒された。今度は瀬奈の体が動かなくなった。
「私は田崎幸代。月島優衣じゃない。あなたの大事なものを奪うような女じゃない…。」
目を見据えて言った。
「月島優衣じゃ…ない…?」
幸代には瀬奈の瞳がブルンと震えるのが見えた。
「私を見て?私はあなたに辛い思いをさせた女?良く見て…、私を。」
瀬奈の振り翳された拳がゆっくりと下がって行く。
「月島優衣じゃない…?違う…?あ、あなたは…誰…?」
瀬奈の表情が狂気から動揺へと変わっていく。海斗はそんな2人を見つめている事しか出来なかった。
「私は田崎幸代。あっちにいるのはあなたの旦那ではない…。私の仕事上の上司、葛城海斗さん。海斗さんはあなたを助けようと頑張ってる人。私もあなたを助けたいと思ってここに来た。決してあなたを傷つけようとしに来たんじゃない。私はあなたと友達になりたくてここに来たのよ?」
瀬奈の目が次第に虚ろになって行った。
「あなたは…月島優衣じゃない…」
「ええ。田崎幸代よ?」
「田崎…幸代」
瀬奈が幸代の名前を口にした瞬間、瀬奈の瞳の瞳孔がシュッと締まったのが分かった。瀬奈の顔から毒気が消えた。幸代はそんな瀬奈に優しく微笑んだ。
「私はあなたを苦しめたりしない…。」
幸代のその言葉に、瀬奈の瞳から一粒の涙がこぼれ落ちたのであった。