〈愚者達の夜〉-6
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数週間後。
あの車はライトを点けて夜道を駆けていた。
一路目指すその目的地は、何処あろう、あのラーメン屋である。
『名前は宮森咲良、年齢は16才。〇△高校に入学したばかりで、部活はダンス部。だいたい19時には部活が終わって、それから21時くらいまでラーメン屋を手伝ってますね』
『それだけ判れば今回は大丈夫だろ。家の前で拉致るんだから』
長髪男は調べたデータを自慢気に話し、鼻をヒクつかせてご満悦の様子。
『か、彼氏とか居る?』
『慌てないでくれよ。部活が終わって真っ直ぐラーメン屋に直行してるし、定休日にも男と会ったりはしていなかった。つまり、処女の可能性は高いでしょう』
下劣なオヤジ達は、咲良の貞操に興味津々だった。
誰かに抱かれ、“唾”を付けられた少女など存在価値すら見出だせなかったし、これから性欲処理のペットにしようというなら、身奇麗な方が良いに決まっている。
『彩未なんてクソガキは、とっとと売っ払ってやったぜ。邪魔な奴らに「警察が捜査を始めた。そろそろ此処にも来る」って言ってやったら、蜘蛛の子を散らすように逃げていきやがったぜ?』
『それは効いたろうね。もうあそこには来ないだろう……』
新しい美少女を飼う為に、部屋は空けてある……何も知らない母娘の店は、煌煌と明かりを照らし、来訪を待っている……。
「いらっしゃいませ!」
あの元気な声が、三人を出迎えた。
自分の、いや、母娘の生活すら破滅に導く鬼畜達とも知らず、何時ものように席を進める。
「最近……よく来てくれますね?えへへ……」
はにかみながら、咲良は小肥りオヤジに声を掛けた。
たった一人でも常連客が出来た事が、嬉しかったのだ。
『この店、気に入っちゃったからね。もう頼むのは決まってるんだ。味噌ラーメンに大ライスに餃子を三つね』
「はい!ありがとうございます!」
今夜はいつもより客足が多く、咲良は三人に注文の品を置いてからも、忙しく応対に追われている。
相変わらず割烹着にジーンズだが、だからといって、その魅力が削がれたりはしない。
天真爛漫な笑顔は、その辺の制服を着た少女など足元にも及ばぬ輝きを放つのだから。