〈愚者達の夜〉-2
『ふっくくく……はあ〜……じゃあ、これからの僕達を祝して食事でも行きますか?あ、僕の車のガソリン代と、食事代は君達が出してね』
相変わらず金には細かい男だが、美少女のデータはこの男に頼る以外に無い。
特に不満を顔に出すでもなく、小肥りオヤジと首謀者は、長髪男の所有する型遅れなミニバンに乗り込んだ。
『なに食べます?』
『俺は別にラーメンでもいいぞ』
『おや、またまた奇遇ですね。僕も今はラーメンモードですよ』
いちいち勘に触る言い方をする長髪男を無視し、首謀者はすっかり暗くなった街並みに浮かぶラーメン屋の明かりを探す。
……と、首謀者の瞳はギラリと光った。
『戻れ!あの店に決めた!』
振り向いた首謀者が指差した先には、あまり流行ってそうもない“こぢんまり”としたラーメン屋が立っていた。
外壁もそんなに新しくもなく、綺麗とは言い難い。
『……君とは意見が合わない……なんだよ、あの汚い店は……』
長髪男は不機嫌さを隠さず、拗ねたような声を出した。
首謀者や小肥りオヤジの普段の気遣いなど、まるで気付いてもいないのだろう。
『一瞬だったけどなあ、あの店の中に、なかなか可愛いガキが居るのが見えたんだ……』
長髪男は無言のままUターンし、その店へと向かった。
首謀者の審美眼には、長髪男も一目置いているのだから。
そのラーメン屋は細い路地の方に入り口があり、何故か広い道路に背を向けている。
駐車場も狭く、細い路地を隔てた向こうには雑草の生えた空き地がある。
本来ならその空き地も駐車場だったのだろうが、今では使われている形跡すら無い。
三人は車を降り、そのみすぼらしいラーメン屋へと歩いていった。
『頭に白い“ほっかむり”してたから、たぶんアイツは店員だぜ』
『店員?まさか君は僕達のターゲット年齢を忘れた訳じゃないですよね?』
『ま、ま、見てみれば分かりますから……』
面倒臭い長髪男を押すようにして、三人は暖簾をくぐって中に入った。
暖かな照明と食欲をそそる香りに包まれる……と、三人の鼓膜は、脳髄まで痺れるような声に震わされた……。
「いらっしゃいませ!」
その声の主を視界に捉えた三人は、一様に動きが止まり、店の入り口で固まってしまった。
パッチリとした二重瞼はクリクリとした瞳を彩り、低い鼻と薄い唇は幼さに満ちている。
眉は今時の娘にしてはやや太く、栗毛色のショートカットは内巻きに綺麗な曲線を描く。
ジーンズに白い割烹着という出で立ちもなかなかなもので、その白い肌は首謀者達の“食欲”を堪らなく刺激した。