近所の小説家-2
直ぐ様マスターベーション行為を否定したマスゾウだったが、その言葉はサセエには通用しなかった。
こと淫靡な事に於いて、サセエには隠し事は出来ない。
「うそおっしゃい!それ〜!」
サセエが掛け声と共に布団をめくり上げると、栗の花のような匂いが一気に部屋に広がった。
そこには尻丸出しの状態で、やや萎れ掛けた肉棒を右手で握り、左手で零れた精子を少しでも掬おうとした情けない姿のマスゾウが現れた。
「まあ、あなたったら。アタシとのセックスを拒んだクセに、こっそりセ○ズリをコいて無駄遣いするなんて!」
再び、その声は近所中に響いた。
「ご、誤解だよお…」
「何が誤解よ!ち○ぽから精子を垂らしながら誤魔化さないで!それにアタシのお○んこ見ても勃起しないクセに、そんな本で勃…、ンッ!ンンン!そ、その本って、まさか…」
サセエは、マスゾウが読んでいた本に目を移した途端、いきなり態度が変わった。怒髪天を突く怒気は、まるで潮が退くように鎮まった。
しかし、普段から妻に気を使い、オドオドしていたマスゾウは、妻のその変化に気付かなかった。とにかくサセエに無駄遣いがバレたからには、誤魔化すと後が怖い。マスゾウは正直に何を読んでいたのかを告白した。
「こ、これかい?イキサカ先生が最近出した官能小説だよお〜」
それは、近所に住む純文学作家のイキサカが、官能小説家として転身を果たした話題作だった。
その内容は、主人公の作家が近所の主婦と関係を持った事から人生観が一変し、自堕落な性を追及していくというストーリーで、作家とその主婦との赤裸々な性行為の描写は、イキサカの周辺を知る者の一部からは、実話ではないかと噂されていた問題作だった。
「ま、まあ、あなたったら、そ、そんな本読んだら、ダ、ダメじゃないの。オホ、オホ、オホホホホ…」
「ご、ごめんよお〜。もう読まないから、許してくれよお〜」
「まあ、あなたったら、そんな事で謝らなくていいのよ。気になさらないで、オホ、オホホホホ」
「いいのかい」
「勿論よ。だからもうそれは読まないでね。ほらアタシに貸して」
自分の戸惑いに気付かないマスゾウをいい事に、サセエはこの場をなし崩しに収めようと思った。
サセエに言われるまま、マスゾウは問題の本を手渡した。本を受け取ったサセエがホッとした瞬間だった。
「でも、サセエ〜、それに出てくる【サザエ】って女、サセエにそっくりだったよお〜」
「ギックウウウ!そ、そ、そ、そ、そんなワケないでしょ!」
マスゾウの一言で、サセエは夫以上に挙動不審になった。
「何をそんなに驚いてるんだい。身に覚えでもあるのかい?」
「バ、バカな事言わないで!アタシが夫以外の男に、お○んことお尻の穴にバイブ突っ込まれて失神するワケないでしょ!」
それはこの小説の冒頭部分に出てくる濡れ場だった。
「あれえ、どうして知ってるんだい?」
「ギックウウウ!そ、そ、そ、そ、それは…」
言葉に詰まったサセエに、マスゾウは珍しく詰め寄った。
「サセエ〜、若しかして…」
「ううう…」
サセエ、絶体絶命。しかし、その妻の窮地を救ったのは、それを追及する夫自身だった。
「若しかして、サセエも読んだのかい?」
「へっ?」
一瞬我が耳を疑ったサセエだったが、夫の超ド級の鈍さを思い出して安堵した。
「そ、そうよ、アタシも読んだのよ。ホホホ」
「何だそうっだたのかい。しかし、これに出てくる【サザエ】って主婦、酷かっただろお〜」
「あら、そうだったかしら?」