C.-7
湊と過ごす休日は、いつもコーヒーを飲むことから始まる。
「兄ちゃんがこの前くれたやつでさ、これ。すんげー美味いの」
そう言って湊が淹れてくれたコーヒー。
やたらコーヒー通の湊。
陽向はいつも家ではインスタントのやつなので、豆から精製するものを飲むのはここの家に来た時くらいしかない。
「いー匂い」
「だろ?」
ソファーに並んで座り、湊がテレビをつける。
『今日の天気は快晴です。お出掛け日和、洗濯日和ですね』
2人してボーッとその声に耳を傾ける。
「晴れだってな」
「だね」
「公園行くか」
「うん!約束してたもんね!」
支度を済ませて外へ出たはいいものの、外は驚くほどの暑さだった。
早くも梅雨明けしたと言っていた天気予報士の言葉を完全に聞いていなかった。
「あづい…」
湊のマンションからほど近いここの公園は、かなり広い。
子供が遊べる噴水広場や、健康的な肉体美を見せながら走るランナー御用達のランニングコースもある。
噴水の近くにある木陰のベンチに座り込み、陽向は「暑い」を連呼した。
「おめーが来たいっつったんだろーが」
「だってこんな暑いと思わなかったんだもん!」
「夏なんだから暑いに決まってんだろアホ」
「アホって言うなバカ!」
「んな事言ってっとコレやんねーぞ!」
湊が差し出したのは、すぐそこの自販機で買ったスプライトだった。
炭酸の中ではスプライトは群を抜いて好物だ。
「あっ、スプライト!」
陽向が手を伸ばすと、汗をかいた缶を高々と上げられた。
「ちょーだいっ!」
「ワガママなおチビにはやんねーよ」
「いじわる!」
「ごめんなさいって言え」
「はぁ?湊だってあたしのことアホって言ったくせに!お互い様でしょ!」
「は。悔しかったら取ってみろ」
ジャンプしたりベンチに上ったりして取ろうとするが、スルリと交わされる。
そんな小競り合いをしていた時、1組の男女が目の前を通り過ぎた。
黒髪で短髪、爽やかな笑顔…。
瀬戸さん…?
の、隣は……。
「うそ!」
「あ?なんだよ」
陽向が声を上げると湊が陽向の視線の先に目をやった。
ずいぶん遠くまで歩いて行ってしまっている。
「なに?知り合い?」
「あ…病棟の先輩」
「ふーん。そんな驚くこと?」
驚くもなにも、隣にいたのは紛れもなく、進藤だった。
いつだか進藤に瀬戸との関係を聞いた時、意味深な答えが返ってきた。
付き合ってるの…かな…?
でも「気を付けなね」って言ってたから過去の事のようにも思えるけど、現に今はこうしてデート?してるし。
「ボケっとすんな。せっかくの休日だぞ」
湊は陽向の頭を叩いて両手にスプライトの缶を持たせた。