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プラネタリウム
【ラブコメ 官能小説】

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C.-4

午後の予定はそれ程なかった。
ぐったりした岩本さんを車椅子に乗せ、家族と散歩させた。
「させた」と言うのは、岩本さんの本心じゃないからだ。
外の景色を見ることで人は変わるということを、陽向は知っていた。
でも。
「目がキラキラしてたんですよ…あなた、風間さんって言うの?今日はありがとうございます。この人と一緒にお散歩出来てよかった。この人はね…」
延々と岩本さんの思い出を語る人は岩本さんの夫。
陽向はその話に耳を傾け、泣きそうになった。
そして、堪えた。
愛する人のその先を考える思いに、どうしようもなく、心が痛んだ。
”どうなろうと、側に居続けるのが愛ってもんなんでしょうね”
岩本さんの夫はそう言って帰って行った。
何かしてあげたいと思うが何も思いつかない。
きっと、経験がないからなのだろう。
陽向は岩本さんの夫に「お気を付けて」と言うことしかできなかった。

夫が帰ったのは18時近くだった。
日勤の勤務時間はとっくに過ぎていた。
でも、それでも夫が帰るまでは居たいとなんとなく思った。
陽向がパソコンの前の椅子にどさりと座るとリーダーだった瀬戸が「遅過ぎ」と呟いた。
「すみません…」
「大丈夫か?って言おうと思って何回もピッチ鳴らしてんのに出ねーし。何してたんだよ」
「岩本さんの旦那さんと話してて…」
陽向がそう言うと瀬戸は「あっそ」とだけ言ってパソコンに向き直った。
陽向も果てしない記録をするためにパソコンに向き直る。
19時半を過ぎた頃から徐々に「お疲れ様でーす」と帰っていく。
20時になり、残るのは近藤と陽向だけになった。
これくらいの時間になってくると、何もかもがどうでも良くなってくる。
ノロノロと処方箋を手に取り、パソコンの前に座る。
足りない薬はないかと確認している時に、ふと、近藤は何をしているのかと思い、パソコンの画面をチラ見する。
なんだか難しそうな視線の先には難しそうなエクセルの画面。
視線に気付いたのか、進藤は振り向き、「風間、終わんの?」と声を掛けてきた。
「あ…ハイ。これ見たら…」
「これって……なに?」
進藤が眠たそうな二重のくっきりした目をこすり、陽向のパソコンににじり寄る。
画面には岩本さんのICUの記録が映し出されている。
「……」
「……」
「…で?」
「え?」
「で、これ見てどーすんの?」
「あ…えと……薬の確認を…」
「はぁ?」
進藤は陽向を般若のような形相で見た。
殺気を感じる…。
「ねぇ、ICUの転入とったことないの?」
「あ…あります」
「薬の確認、パソコンで見ろって教わった?」
…正直、記憶にない。
「すみません…」
「すみませんじゃなくてさ…。あーっ、もーホントに!…だから、これはね……」
なんだかんだ色々教えてくれる進藤。
申し訳なくなってきて、壊れ修復しかけていた涙腺が、また崩壊し始める。
「…っう。…ごめ……なさいっ…」
「えぇっ?!また泣いてんの?!…っもー。風間、泣かないで。ホラ、後これだけ見ちゃいな」
「…ぁい」
夜勤のスタッフたちが「どうした?」と言う目でこちらをチラ見する。
のなんてどーでもよかった。
陽向はボロボロ泣きながら進藤に言われるがままにICUの伝票と処方箋を見ながら薬を確認した。

仕事が終わったのは22時。
進藤も自分の仕事を終えて、一緒にエレベーターに乗る。
「最近、どーなの?」
「…え?」
「仕事。辛い?特に…瀬戸さんとかさぁ。あたし、1年の頃瀬戸さんちょー嫌いだったんだよね」
進藤は、はははと笑って陽向の方を見た。
「今日もちょー言われてたね。瀬戸さんのこと、嫌いになった?」
確かに今日はこっぴどく罵声を浴びせられた。
でも、瀬戸はきっとあんな人じゃない。
日勤後、駐輪場まで一緒に行った日のことを思い出す。
「…いえ」
「ホントにー?別にチクったりしないよ?はははー。なんてね。瀬戸さん、ホントはいい人だからさ」
エレベーターを降り、更衣室へと繋がる廊下を並んで歩く。
進藤のその言い方に、なんとなく違和感を感じながら…。
「嫌いにならないであげてね」
ニコッと笑った進藤の顔が、なんだかいつもと違ったような気がして、気になって仕方なかった。
「あの…!」
更衣室のロックを解除し、個々のロッカーに行こうとした時に陽向は口を開いた。
「なに?」
「あの……進藤さんは、瀬戸さんと…その…なんかあったんですか?」
陽向の急な問いに進藤はまた、はははと笑った。
「どーゆーこと?そう見える?」
「さっきの話聞いてたら…なんとなく。てか、あたしがどーのこーの言う事じゃないですけど。気になったんで、聞いただけです」
進藤は「あったよ」とさらっと答えた。
「え…」
「風間が言ってることに否定はしないよ。でもね…」
進藤は小声で言った。
「気を付けなね」
陽向はそれを聞いて、何故だか身震いした。


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