投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

プラネタリウム
【ラブコメ 官能小説】

プラネタリウムの最初へ プラネタリウム 18 プラネタリウム 20 プラネタリウムの最後へ

C.-2

術後からどれくらい経ったのだろうか。
岩本さんがICUから病棟へ転棟してくる日となった。
「風間。岩本さん戻ってくっから、情報取っとけよ。14時な」
「はい」
リーダーの瀬戸からそう言われる。
陽向はあれから見てないカルテを開き、岩本さんの情報を取った。
脳梗塞になってから、鼻に管を入れられ、動けないまま、日々を過ごしていたようだ。
14時。
「ICUでーす!転棟お願いしまーす!」
生温いICUの看護師の声が聞こえてくる。
陽向はその声を聞き、瞬時に廊下へ飛び出した。
「岩本さんっ!おかえりなさい」
笑顔で迎えた岩本さんの表情は、明後日の方向を向いていた。
天井を見つめ、口を開けている。
……脳梗塞って、こうなっちゃうの?
陽向はベッドを個室へ移し、ICUのチャラい看護師から申し送りを受けた。
全て分かっている。
ICUで起きた合併症も、何もかも全て…。
岩本さんの合併症が重症だということも、分かっている。
送りが終わった後、呆然としている陽向に「おい」と瀬戸が一喝入れる。
「あっ…ハイ!」
「行くぞ」
「はい…」
陽向は瀬戸の背中を追い掛けた。
19号室のドアをノックする。
しんとした空間に足を踏み入れる。
「この管は…」
瀬戸が丁寧に一から説明してくれる。
それを逃すまいと紙の端っこに書き留める。
「風間」
「はいっ?!」
「こーゆー患者持つの初めて?」
「はい…初めてです…」
「オペ後の患者は?」
「えと…あ、何度か…」
「って聞いたのはさ…。この患者はもう既にオペ後の看護ってゆーより…なんつーのかな……。この人に出来るケアをして欲しいわけ。…分かる?」
「………」
「分かんなかったら聞けよ。高橋でも…誰にでも。…お前、プライマリーなんだろ?」
プライマリー…それは、自分の担当の患者ということだ。
「…はい」
「お前がこの人を良くするのも悪くするのも、お前にかかってんだよ」
「……」
岩本さんに出来る事って何…?
陽向にはさっぱり分からなかった。
そもそも、脳梗塞って…?
そこから始まるって事自体が既に終わってると思う。
陽向は何も答えられずに19号室を後にした。

勤務後、記録していた高橋に声を掛ける。
「高橋さん…」
「ん?なに?」
高橋はパソコンから目を離さずに答えた。
今日のオレンジチームは相当忙しかった。陽向が転入を取るという事になっていたので、高橋にカテーテル検査やら入院やらたくさんのイベントが付けられていた。
他のチームの人はみんな帰宅している。
「ひとつ聞いてもいいですか?」
陽向がそう言うと、高橋はゆっくり振り返った。
「仕事終わったの?」
「…いや、まだ全然」
隣でパソコンをいじっていた瀬戸が「早く終わらせろや。てめー転入とっただけだろ」と罵声を浴びせる。
陽向と高橋はそれを無視した。
「…で、なに?」
「あの……。岩本さんに出来る事って…何でしょうか?」
「んー…」
高橋はそう答えると、おもむろにパソコンの後ろにある本棚を漁った。
「脳梗塞でしょー?んー…」
陽向も隣に並んだ本を手に取り眺める。
……全く分からない。
「離床だよ、離床!」
「瀬戸は黙っててよ!あたしが聞かれてんだから!」
「本見なきゃ分かんねーよーじゃ使いもんになんねーわ」
「ホントうざい。黙って!」
「は」
瀬戸は鼻で笑い、再びパソコンに向き直った。
高橋は「なんなのマジで」と言いながら本のページをめくった。
「あ、あったあった。脳梗塞後の看護」
高橋はそう言い、陽向にそのページを見せた。
何やら難しい事が色々書かれている。
離床、歯磨き、整髪……。
きっと今の岩本さんにできるといったら、離床目的で車椅子に乗せるくらいだ。
「車椅子くらいなら、なんとかなりますか?」
「そーだね。……ちゃんと見てないから言えないけど、歯磨きとかはまだ無理そうかな?」
「はい…今のところ、ほとんど傾眠がちなので…」
陽向はおずおずと答えた。
岩本さんにしてあげられること……なんだか分かんないよ。


プラネタリウムの最初へ プラネタリウム 18 プラネタリウム 20 プラネタリウムの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前