デート、開始-8
私が選んだワンピースはちょっぴり露出度は高いけど、そんな奇抜なデザインじゃないし、全然使えるアイテムなんだって。
ただし、『若い』女の子が着れば。
若い娘なら、多少の生地の安っぽさも年齢でカバーできるけど、30を越えたおばさんがこういう服を着ると、残念な感じになるらしい。
天慈くんの、「レディースものは安くて可愛いものがいっぱいあるから大丈夫」って言うアドバイスを真に受けてそのワンピースを買ったけれど、あれはやっぱり彼自身が若いから私の年齢を考慮できてなかったのかもしれない。
デイリーならともかく、ちょっとオシャレしたい時は、それなりのものを着た方が絶対映えるかも。
そういう年齢なんだ、私は。
そもそも私の選んだ、パーティー用ドレスみたいなワンピースは、爽やかな初夏の陽気の元でデートするにはあまりにも浮いている。
加えて、どちらかと言えばデイリーで使うような白のニットカーディガンと、ストロー素材のクラッチバッグ。
ヒロさん達は、ワンピース自体をダサいと言ったんじゃない、TPOに合わない服と合わない組み合わせについてダサいって言っていたんだ。
「あたしのワンピ、シンプルで物足りなく感じるかもしれないけど、シルエットがすごく綺麗なの」
顔を上げられない私に、ヒロさんがそう説明する。
俯いたまま身につけたワンピースを見れば、なるほどウエストからスカートにかけてのラインがすごく綺麗に見えた。
「そのワンピ、テンセルだから肌触りもいいし、適度な光沢と、ドレープで、柔らかい印象になるのよ。可愛らしい顔立ちのあなたなら、セクシー系よりこちらの方が似合ってる」
思わぬ誉め言葉に顔を上げると、ヒロさんがニッと得意気にその美しい唇を弓形に曲げていた。
「とにかく、騙されたと思って、あたし達に任せてみて。絶対デートを成功させてあげるから」
そのあまりに自信たっぷりにいう口振りに、反射的に頷いてしまう。
「さあさあ、里枝ちゃんが納得した所で始めるわよ」
ようやく和やかな雰囲気になった所で、天童さんがポンポンと手を叩きながら私のそばに寄ってきた。
「天童さん……」
「やっとアタシもやる気になってきたわ。里枝ちゃんは可愛い顔してるから、それを活かしつつ大人の色気も合わせたヘアスタイルにしてあげるからね」
そして、席まで手を引いてくれた彼は、そこに座ったわたしにケープを巻いてから、顔の横に自分の顔を並べ、真剣な表情で鏡越しに見つめてくる。
その表情はやっぱりセクシーで、オネエと言えど胸が勝手に高鳴った。
「時間があまりないから、飛ばすわよ」
と、指を鳴らす天童さん。
「メイクもあるから急いでね」
と、腕組みしながら鏡越しに話しかけるヒロさん。
さっきとは全然違ったその真剣な表情は、やはりプロだと思わせるには充分だった。