デート、開始-3
ファサッとワンピースが床に落ちる。
後に残るのは私と天童さんの弾んだ息遣い。
輝くん以外の男に柔肌を晒すなんて――。
そんな中、悔しさと罪の意識で涙が一粒、こぼれ落ちた。
こんな展開になるなら、輝くんと二人でデートなんて考えなければよかったよ。
「……うぐっ、ひっく」
ソファーの背もたれに顔を向け、次々と溢れてくる涙を必死でこらえる私に、天童さんの手が伸びてきた。
これ以上身体に触れられたくない!
悲しみに浸る間もなく、襲いかかる魔の手から自分を守ろうとした私は、自分の身体を抱き抱えるように竦めつつ、天童さんを睨んだ。
「触んないで!」
この身体に触れていいのは、輝くんだけなの!
歯を剥いて天童さんを威嚇すると、さすがに彼もどうしていいのか分からないらしい。
「いや、手荒い真似したのは悪かったわよ。だけど、どのみち服はヒロのを着るわけでしょ? だから……」
「だからって、無理矢理服を脱がしていいんですか!? 仮にも私は女であなたは男……」
「ああ、そこは気にしないで? アタシは性別上は男だけど、心は女だから。同性だと思って?」
若干言い方が猫撫で声になった天童さんに舌打ちが出る。
確かにあなたはオネエだけど、だからといって簡単に同性と割り切れるわけないじゃない。
見た目だけは男の天童さんに組み敷かれた時は、本能が「ヤバイ」とアラームを鳴らしていたんだから。
「……帰ります」
ようやく私はソファーから立ち上がると、床に落ちたワンピースを拾い上げた。
綺麗になるためにここまでしなくちゃいけないのなら、今まで通りの自分でいい。
そりゃ、綺麗になりたい願望はあるけど、輝くん以外の男に肌を晒すなんて、裏切りだと思われても仕方ないから。
だったら、ダサくたって輝くんに誠実でありたい。
「やっぱり自分が選んだ服でデートしてきます」
この人達にダサいと言われたワンピースだけど、私が可愛いと思うなら、それでいいじゃない。
にべもなく言い放つと、天童さんはポカンと口を開けて言葉を失っていた。