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鎖に繋いだ錠前、それを外す鍵
【フェチ/マニア 官能小説】

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鎖に繋いだ錠前、それを外す鍵 4.-10

 しかし友梨乃はやがて小さく首を振った。陽太郎は自分を受け入れてくれている。こうして抱かれていると心も体も和む。もう戻りたくない。陽太郎を失ったら、もう自分には何もない。
「一緒にいて。ずっと」
 友梨乃が頬を寄せると、陽太郎が更に体を密着させて抱き寄せ頭を撫でてくれる。温かい。やはりもう、この温かみを失うことはできない。身を引くなど、怖くてとてもできない。
「ユリさん、明後日、休みって言うてましたよね」
 半休と全休がこんなにも近くシフトされることはまずなかったが、店長がどうしても月末の土曜日に開催される学校行事の親子芋煮会に行きたいということで、友梨乃が代わりに入ることになっていた。その代替の休みが明後日だ。
「うん」
 陽太郎を信じよう。そう言い聞かせながら顔を上げると、そこには期待通りの柔和な笑みがあった。
「どっか行きましょう。……今日の、やり直し」
 もう一度最初から、友梨乃の扉を開くのだ。今日のように、二人で手を繋いではしゃぎながら。
「どこ行くの?」
「それは……、ユリさんが行きたいとこで」
 陽太郎の顔をじっと見ながら黙って考えている。「俺と二人でどっか行きたいとこ、ないですか?」
「……ディズニーランド」
 友梨乃は息を吸い込んで呟くように言った。「行ったことないんだ」
「わかりました、行きましょう」
 その声を聞いた安堵と温かい抱擁の中で、陽太郎にしがみついたまま眠った。
 翌日クローゼットの中にあった陽太郎の服を借りて出勤した。ゆったりとしたトップスが多いから胸は収まり、ほぼ同じ身長の陽太郎の服は友梨乃のスタイルにピッタリと合った。彼氏の服を着るっていうのも珍しいな、複雑だけど。出勤中の東西線の中でも自然と笑みがこぼれた。昨日は悲しいことがあったけれど、陽太郎との仲は壊れなかった。明日一日でやり直そう。しかもずっと恋人と行くことを憧れていたディズニーランドだ。きっとすごく楽しいだろう。きっとまた手を繋ぎたくなるだろうし、抱きしめてもらいたくなるだろう。勤務中も思わず頬が緩んだ。改めて仕事に集中しなければ何かヘマをやらかしそうなほど、気持ちが明日に向かっていた。明日、本物の女になるかもしれない。
(陽太郎くんって、どんな下着好きなんだろう)
 いつかヘアサロンで読んだ女性向け雑誌の記事、「彼氏をトリコにするランジェリー」というタイトルを見て笑ってしまったが、そうか、こういう時に必要な情報だったんだ。男の子は女の子が脱いだ時に身に付けている下着に、多種多様の趣向があるらしい。どんなのが好きか聞いておけばよかった。
(……全然こわくない。陽太郎くんだから、大丈夫なんだ)
 明日のことを思っても拒絶の悪寒を示さない体に、友梨乃は一日ずっと幸せな気分で過ごした。店長が、はい終了、皆さんお疲れ、と早く言わないか内心ウズウズしていた。
 ――何か今日、四方木さん機嫌よかったね。茅場町までの道すがら、前を歩く残りの二人のアルバイトに聞こえない声で、店長が話しかけてきた。
「藤井くんとケンカしても業務に支障出さないでね。……もちろん、今日みたいに機嫌いいときも上の空にならないように」
 友梨乃は驚いた顔で店長を向いたが、すぐに否定の言葉が出てこなかった。さすがは店長を任されるだけあって、スタッフへの目配りは抜かりない。「ま、四方木さんは真面目だからね。信頼してるよ。今日みたいに、油断しないように自分で自分をコントロールしてくれるしね。……彼と何があったのかは聞いてみたいけどね、セクハラにならない範囲で」
 笑う店長は何もかも見通していたので、友梨乃はただ照れて困った曖昧な笑みを漏らすしかなかった。店長たちが地下階段へ降りていくのを見送って、友梨乃は一人で自宅に向かった。足取りが早くなっていく。早くお風呂に入って寝よう。そうしたら明日が早くやってくる。
 友梨乃はバッグだけ部屋に置いて廊下に戻る。明日もし、陽太郎に本物の女にしてもらえたら、智恵に言ってやろう。そう思うと今日のところはたとえ智恵に何を言われても笑顔でいれそうで、気楽な気持ちでリビングのドアを開けた
「なに? どうし……」
 リビングに数歩入ったところでピタリと止まった。座っている智恵の前にはもう一人いた。折った膝を抱えて座っている女の子は、パーカーワンピースを着ていた。「え……?」
 美夕は入ってきた友梨乃を怨念を込めた視線で見上げていた。何故この子がここにいるんだろう。友梨乃はクッションの上に座って二人の様子を眺めている智恵を見下ろした。
「智恵……」
「まぁ、座ったら?」
「なんで、美夕ちゃんがここに――」
 ここにいるの?、と問おうとしたら、
「お前に『美夕ちゃん』とか言われとうないわっ」
 と吐き捨てるように美夕が言った。美夕の一言に萎縮して首を窄めた友梨乃を可笑しそうに眺めながら智恵が話し始めた。
「なんかな、今日働いてる時から店の方見てずーっと中覗いてる子がいたから気になっててん。ユリは朝帰りで上の空で気づかんかったやろーけどねぇ? ウチが午前勤で帰ろーとした時もまだおってね。なんか、めっちゃ、かなしー目しててね。……いつかの誰かさん思い出して声かけてん」


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