瀬奈の真実-1
落ち着きを取り戻した瀬奈。今までにない神妙な表情でソファに座っている。対面するように座る海斗も同じであった。今はおちゃらける場面ではないと一応心得ていた。
座ってから暫く俯き視線を落としたままの瀬奈。話し出すタイミングがなかなか掴めないでいた。海斗も落ち着いた姿を装いながら内心はソワソワしていた。さりげなく瀬奈の事をチラッと見て様子を伺っていた。すると瀬奈の口元が動いた。瀬奈はいよいよ海斗に自分の全てを明かす決心がついたのであった。
「進藤瀬奈…。私の名前は進藤瀬奈って言うの…。」
「進藤瀬奈…」
「うん。」
名前を知っただけでも瀬奈との距離が一気に狭まった気がした。
「旧姓三上瀬奈…。ごめん、結婚してるの…。」
「そ、そっか…。」
狭まった距離がまた少し離れた気がした。しかしそんな事で落胆するのは間違いだと思った海斗。気持ちを正し瀬奈としっかりと向き合うつもりになる。
「生まれも住まいも神戸。歳は前にも言ったけど20歳。高校を卒業してすぐに結婚したの。旦那は進藤有樹と言って5歳年上の会社員。私の親は地元の議員をしているの。有樹は私の父親の後援会に入っていて父のお気に入りでね、暫くしたら自分の後継者にする予定なの。だから私と結婚させたの。あ、でも結婚するまでに家に何回も来たし、接しているうちに段々彼の事を好きになって行って、この人となら結婚してもいいかなって思ってから結婚したから許婚とかお見合い結婚とか、そういう感じではなくて、殆ど恋愛結婚みたいなものだったの。」
「そうなんだ。瀬奈は政治家の娘さんだったのか。道理で品がいいはずだ。」
「そんな事ないよ。平気で海でエッチしちゃうぐらいだからね。」
軽く笑顔を浮かべた。平静を保つ海斗だが、ジェラシーを感じずにいられないのは少なからずとも瀬奈に恋心を抱いていたからであろう。海斗の胸にはいまだかつて感じた事のないよいなモヤモヤが蠢いていたのであった。