瀬奈の真実-8
まず口を開いたのは知香だった。
「私、幸代ちゃんの事、好きだよ?好きだけどこれだけは言っておくね?幸代ちゃん、海斗さんの事、好きなんでしょ?」
「えっ…?」
もっと汚くて罵りの言葉が飛んでくる事を予想していた幸代は驚いた。
「好きだよね。 分かるよ?仕事でいつも色々と教えてくれて助けて貰って、失敗しても一生懸命フォローしてくれる。そりゃあ好きになっても仕方ないよ。あれだけ幸代ちゃんの為に頑張ってくれるんだもんね、海斗さん。私が羨ましいって言ったけど、私から見たら幸代ちゃんの方が羨ましいよ?」
「…」
「上司と部下の関係…、でもそれが男と女ならそれだけの関係の中での感情でおさまらないのは当然。自分を助けて守ってくれる海斗さんに上司以上の感情を持つのは私はおかしくないと思う。好きになった幸代ちゃんの気持ちは凄く分かる。」
知香が何を言いたいのか良く分からなかった。
「好きになった人が他の女とイチャイチャしてたら当然嫉妬するよね。うん、私でも嫉妬する。でも海斗さんに受けた恩恵に比べて、幸代ちゃんは海斗さんに何をしてあげたの?」
「…」
その言葉にハッとさせられた。
「ねぇ、幸代ちゃんは海斗さんに何かしてあげた?部下として、女として何かしてあげた事ある?部下としてなら成長する事が恩返しになるけど、でも幸代ちゃんは海斗さんの事を男として好きになったんでしょ?じゃあ女として幸代ちゃんは海斗さんに何をしてあげたの?」
「…」
言葉が出なかった。何もしていない。いつも否定的な返事ばかりしていて理解してあげる事も何もしていない自分を知っているからだ。
「いつもお世話になっておきながら何もしてあげてない幸代ちゃんにどうして海斗さんが振り向くのよ?ねぇ、教えてよ?」
「…」
知香の言う通りだ。海斗の為に何もしていない自分に海斗が好きになってくれる訳がない、そう思った。自分の一方的な気持ちを海斗に向けて、それに酔っている自分に気付いた。幸代は言葉が出なかった。