〈亡者達の誘う地〜最終章〉-2
『へぇ……ロープを伝って降りて来やがった……ハリウッドスター気取りかよ?格好良いじゃねえか、大根役者がよぉ……』
危険極まりない〈凶器〉は、専務の目には確認されてはいない……勿論、甲板で八代を見守っている部下達の目にも、それは見えてはいなかった……。
大袈裟な突撃銃をブラ下げて降下したなら、貨物船が逃走を図るのは明白だろうし、緊急無電を発信されて、秘密裏の処理が崩れてしまう危険性が飛躍的に高まってしまう……八代が正確度の高い拳銃に拘ったのは、この降下の瞬間の為であった……。
『…………』
ヘリは再び上昇し、緩やかに貨物船の周りで旋回を始めた……ついに乗せてはいけない男を、貨物船は受け入れてしまったのだ……そして、八代の使命を知らない部下達は、この突然の訪問の意味を確認しようと、無防備なままで駆けよっていった……。
『どうしたんです、八代さん?何かあったん……ぐあッ!!』
『え…!?え?や、八代さ…はぶッ!!』
『うわあッ!!ぶひゅ……』
何の躊躇いもなく、八代は専務の部下達を射殺していく……いつも通りの仏頂面に光る瞳は、甲板を赤い血で染めていく亡骸を見ても、感情の起伏すら認められない……その非情な姿は、艦橋の中からは見えてはいない……。
『フン……これは早く“終わる”な………』
専務の殺害を企てていた部下達は、全員が“処理”された……弾を弾倉に込め、血染めの甲板を踏み締めて艦橋へと向かう……この貨物船を無人とする為に……。
『……?』
微かな破裂音を、専務は聴き取っていた。
あれは、あの日に聴いた春奈の拳銃の発射音と、酷似している……専務は艦長席から離れ、右舷側のドアに身を寄せると、ドアノブを握った……。
『……オイ……八代を迎えに行ってこい……』
臆病者の勘が、只事ではない胸騒ぎを起こさせ、この船から逃げろと叫んでいる。
専務は八代に部下を接触させる事で、我が身の振り方を見極めようとした。
つまり、自分の楯にしようというのだ。
『あ、やっぱり迎えに行かないとマズいですよね』
何の不安も感じていない部下は、席を立って左舷側のドアを開けた……と、パァンッと風船が割れたような音と共に、部下の後頭部が炸裂した……専務の抱いていた言い知れない恐怖は、無慈悲にも現実のものとなった……。