異変-8
瀬奈は言葉を詰まらせて涙を拭う。そして言葉を選ぶようにゆっくりと話し始めた。
「海斗、ありがとう。物凄く嬉しいよ…。でもね、海斗にとって私は関わる必要のない存在なの。私の身勝手でお世話になって、そんな海斗にこんな酷い事までして…。これからもいつあんな状態になるか分からない。私に関わるとみんな不幸になる。私のせいで海斗が苦しむ必要はないの。だからやっぱり私は…」
海斗は瀬奈の言葉を遮るように言った。
「あんま深く考えるなよ。俺が助けてやるって言ってんだからそれでいいんだよ。誰が不幸だって?俺は不幸じゃないぞ?不幸になるつもりもない。おまえに不幸にされるか、それとも俺が幸せにしてやるかどっちかだ。勝負しようぜ?」
「海斗…、そんな簡単な問題じゃないの…。」
「簡単さ。だってその勝負に負ける気しねーもん。だいたいおまえみたいな小娘に俺様が負ける訳ないだろう?」
「海斗…」
「釣りキチナメんなよ??諦めたら終わりだ、釣りは!」
「海斗…だからそんな簡単な…」
自分が今まで周りの人間をどれたけ巻き込んで来たか身に染みて知っている瀬奈は海斗を巻き込みたくない一心だった。海斗が苦しむ姿を見たくはなかった。しかしそんな瀬奈の肩を掴み言った。
「俺を信じろ!とにかく勝手に居なくなったら必ず探し出してケツに穴子を突っ込んでやるからな!おまえは大人しくここにいればいいんだ。俺が必ず救ってやる!分かったな!!」
こんな激情的な海斗は初めてであった。しかし自分のせいで傷だらけにされてしまったと言うのに自分を真剣に考えてくれる海斗に胸が熱くなる。
「海斗…。本音は…本音は…あなたと一緒にいたい…。海斗なら私を助けてくれる…、世界で一人の人だと思う。海斗…私を助けて…。」
素直な気持ちを口にした瀬奈を強く抱きしめながら海斗は言った。
「任せろって。」
海斗の腕の中で抱きしめられた瀬奈は目を閉じ、忘れかけていた幸せを全身で受け止めていたのであった。
(話そう…。この人に全てを話そう…)
瀬奈はそう決めたのであった。