異変-5
「うるさいわよ!有樹!どきなさい!その泥棒猫をぶっ殺してやる!!」
そう大声を上げて歩速を早める瀬奈は包丁を振りかざす。
「きゃあっっ!!」
思わず目を閉じる幸代に手を広げて守る海斗。
「くっ…!」
幸代の耳に海斗の小さな呻き声が聞こえた。目を開けると瀬奈が振り下ろした包丁が海斗の左腕をかすめたようだ。海斗のシャツに血が滲む。
「なっ…!」
あまりの恐怖に足が竦む幸代はガタガタと震えながらただただ瀬奈に怯えていた。
「どきなさい有樹!そんなにその女が大切なの!?」
物凄い形相だ。その有樹が誰なのかを明かす前に自分の命の危機を感じる。海斗は無我夢中で幸代を守ろうとする。
「どうしたんだ!?落ち着け瀬奈!」
海斗は危険を省みずに瀬奈に立ち向かう。まず包丁を握る瀬奈の右手を必死で押さえる。」
「は、離しなさいよ有樹!あの女は絶対許さない!!」
「止めろ瀬奈!あいつは月島優衣じゃない!田崎幸代だ!」
「どうしてあんな女を庇うの!!許さない!絶対許さない!!」
こんな華奢な体のどこからこんな力が出るのかと思う程の力で暴れる瀬奈。海斗は何とか包丁を取り上げ投げ捨てた。
「離して!離しなさいよ!!殺してやる!殺してやるんだから!!」
「止めろ!!落ち着け!!」
「うわぁぁぁぁ!!」
怒りに満ちながら泣き叫ぶ瀬奈を抱きしめ必死で抑える。
「あ…あ…」
立ち尽くす幸代に海斗が叫ぶ。
「幸代!今日は帰ってくれ!事情は明日話すから!」
「で、でも…」
「いいから早く!頼む!さぁ!」
「は、はい…!」
震えてガクガクする足を何とか立たせて恐怖に怯えながら車に急ぐ幸代。腰が抜ける寸前で車に乗り、震えるでキーを差し込み海斗の家から離れて言った。
「何で分かってくれないのよぉぉ!私の何がいけないのよ!!」
半狂乱で暴れる瀬奈の怒りの矛先は海人に向けられた。体を抑えられながらも足や手で海人に怒りをぶつける。
「おまえは悪くない!何も悪くない!」
「うわぁぁぁぁ!!」
海斗は瀬奈に体を痛め付けられながらもひたすら強く抱きしめていた。