異変-2
車の中で気持ちを落ち着かせようとする幸代。何故かハンドルをギュッと握り前屈みになっていた。
(何でこんな豪邸に住んでるの…?うちの会社給料普通だしこんな豪邸買える訳がない。もしかして裏の顔があるとか…?もしかして…ヤクザ!?中に入ったら若頭とか何とか頭とかが出てきて海斗さんの素性を知った私は風俗か外国に売り飛ばされて…!)
想像が膨らむ幸代。知らず知らずのうちに海斗の馬鹿が伝染したようだ。手に汗が滲んできた。
(てか、さっきベンス停まってたよね!?ヤクザの代名詞、ベンス…。)
何もの高級外国車ベンスはヤクザだけの乗り物ではない。しかし幸代の中ではそう見えて仕方がない。そんな精神状態だった。
(か、帰ろうかな…。)
もう怖くなってしまった。外国に売り飛ばされるぐらいなら退散した方がいいように思えてきた。悩みに悩んだ幸代だが、せっかくここまで来たのだし、海斗がどうしてこんな豪邸に住んでいるのかも気になってしまった。それに海斗は自分に酷い事をするような人間ではないと信じている自分を信じて、思い切って訪問する事にした。とりあえず車を走らせ門をくぐる。車を停めるスペースはたくさんある。幸代はいつも会社に乗って来ている海斗の車の横につけて停車した。ベンスの横だけは染んでも嫌だったからだ。
車を降りてドアをそっと閉める。そして足音をたてぬよう、静かに玄関に向かった幸代だった。
(大丈夫、海斗さんはヤクザじゃない。指だってちゃんとついてるじゃない!悪い人じゃないってのは私が一番良く知ってる事じゃない!最悪、極道の妻になってもいい。海外に売り飛ばされるよりはマシだわ。)
どうしてもヤクザ説から抜け出せない幸代。恐る恐る玄関の前に立つ。
(今日のことを謝るだけじゃない!謝ったら撃たれる前にササッと帰ればいいんだよ!勇気を持て幸代!!)
幸代はもしかして天然なのかも知れない。ともあれようやくチャイムに向けて指先を伸ばしたのであった。