波立ち始まる海原-1
家に帰り瀬奈が幸代の香水の匂いを嗅いだ時や幸代を始め会社の事務員の話をした時に限って少し様子がおかしくなる事に気付いてからだいぶ経つ。しかしそれらの話題が終わると普段通りの瀬奈の姿に戻る為、気にしないようにしているもののふとした時に考えてしまう。
(嫉妬か…?いや、俺に嫉妬するはずがない。だって自分からセフレでいいって言うぐらいだ。瀬奈は色々と落ち着くまでうちにいるだけだろうし、気持ちの整理ができたら本来の自分の生活に戻るんだろう。俺とどうなるこうなるは有り得ない。じゃあ何でいつも不機嫌そうな顔をするんだ??特に幸代の話をした時に。幸代とは男女の関係がないというのは言ったしな…。どうしてだろう…)
いつも答えは出なかった。今日も濃厚に絡んで来た瀬奈は隣でぐっすりと寝ていた。そんな瀬奈の横顔を見ながら考えていた。
(てか瀬奈ってどんな人間なんだろう。何をしている人なんだ??働いてるのか?主婦か?それともモデル?芸能人??家族は瀬奈の事を探してないのか??そ、それとも何か犯罪を犯して逃げてるとか!?も、もしや脱獄!?ど、どうしよう、人殺しだったら…)
よからぬ事まで考えてしまう海斗。それでも憎めない寝顔を見て苦笑いを浮かべ溜息をついた。
(まぁ助けてやるって言ったからにはこいつの勇気が出るまで面倒見てやんなきゃな。)
軽く瀬奈の髪を撫で眠りについた。
いつもの朝を迎える。毎朝美女に見送られると気持ちもウキウキする。
「行ってらっしゃい!」
「行ってくるよ。あ、今日は帰りが少し遅くなるかも。」
そう一気に瞬間、また表情が曇る瀬奈。
「お仕事…?」
「あ、ああ…。ちょっとまた県外に行くから…。」
「幸代さんと一緒…?」
「あ、ああ…。」
瀬奈は一瞬下を向き海斗から視線を外す。しかしすぐに上げた顔はいつもの笑顔を浮かべていた。
「うん、分かった!気をつけてね!」
「ああ。じゃ!」
手を振る瀬奈に応えて海斗は車を走らせた。