波立ち始まる海原-2
会社に着いたら着いたで知香をかまっている時にチラッと幸代を見ると鋭い視線を感じた。幸代はすぐに視線を外してパソコンをいじり始めたが、なんだかソワソワしてしまう。
「さ、行きますよ?」
「は、はい…。」
今日は幸代がさっさと準備をして事務所を出て行ってしまった。
「あいつ、生理かな…?」
聡美に聞いた。
「違うと思うよ?ンフッ」
含み笑いをする聡美。
「じゃあ何??」
「さぁねぇ。行ってらっしゃい。」
「あ、ああ。」
釈然としないまま事務所を出る海斗。慌てて駐車場に向かうと車の助手席の横でイライラしながら立っている幸代が見えた。
「悪りぃ悪りぃ…」
鍵を開ける海斗。
「いいえ〜」
素っ気なく応えて車に乗った。
(何なんだよ…!?)
頭をかいてから車に乗り走り出した。暫く会話がなかった。幸代は気にしていない様子たが、海斗は幸代をついつい気にしてソワソワしてしまう。しかし沈黙を破って口を開いたのは幸代だった。
「あの〜、前から気になってたんですけど、何で海斗さんは知香ちゃんだけ贔屓するんですか?」
意外な質問だった。
「別に贔屓してるつもりはないんだけど…」
「え〜?してるじゃないですかぁ!?明らかに他の女の子と扱い違いますよね?特別扱いしてるってゆーか。」
「いや、そんなつもりはないんだけど、あーゆー可愛い性格の子見るとついつい…。ああ、そう考えると他の子達とは扱い違うかもな…。」
「ですよね〜!どうしてですか?」
「いや、どうしてって言われても…、萌え系に弱いってゆーか…」
全く納得していない様子の幸代はズバリ本心をぶつけた。
「海斗さん、知香ちゃんと付き合ってますか…?」
「はぁっ!?」
思わずブレーキを踏んで後続車にクラクションを鳴らされてしまった。
「んな訳ねーだろ!?あー、びっくりしたわ。」
「好きとか??」
「いや、好きは好きだが付き合いたいとかヤッちゃいたいとか、そんな好きじゃねーよ。ただ可愛いからついつい構っちゃうだけだよ。」
「本当に??」
「当たり前だろ!?おまえ、それマジで聞いたのか??」
「…別に??」
そう言って顔を背け窓の外を眺め始めた。
(な、何なんだよ今日は!!受難だ。女関係の受難の日なんだなきっと。用心しなきゃなんねーな、今日は…)
そう思いながら運動する海斗は窓の外を見ながら安堵の表情を浮かべている幸代の顔には気がつかなかったのであった。