取られたくない。-1
仕事からモヤモヤしたまま帰宅する幸代。
「ただいま〜。」
母親の美幸がいつものように夕食の準備をしながら振り返り答える。
「お帰り〜。」
「疲れた〜…」
椅子に座りグッタリとする。こうして少しお喋りをするのがいつもの事だ。この時間が大切だ。疲れやストレスを癒してくれる時間だ。ホッとする時間なのである。
溜息をついた幸代を見て美幸はニコッと笑った。
「恋わずらい??」
ドキッとする幸代。何故分かったのかビックリした。
「ち、違うよ!!な、何で…??」
「あらそう。幸代を毎日見てるのよ?今の幸代は仕事で疲れたってよりは恋に悩んでるような顔してるよ?」
「えっ!?」
慌てて顔に手を当てる。
「でも幸代は苦労するわね、きっと。今で言うツンデレ系って言うの??ぶっきらぼうだからね、あんたは。冷たくされて喜ぶ男の人なんかなかなかいないんじゃない??」
さすが母親。娘の事を良く知っている。しかし理解されすぎてついつい抵抗してしまうのも娘であった。
「そんな事ないもん。分かってくれる人もいるもん。」
美幸はニコニコっと笑う。
「海斗さん??」
「えっ!?」
全て見透かされているのが怖い。それだけ幸代も分かり易いという事を自分では知らない。
「あんたが男の人の話するって言ったら海斗さんしかいないじゃない。」
「そ、それはいつも同行して一緒にいる時間が長いし、他に出会いもないから…」
「じゃあ今1番あんたを理解してくれている男性は海斗さんってなるわよね?」
「ま、まぁそうだけど…」
「理解してくれて嬉しくないの?」
「…う、嬉しいけど…。」
「しかも色々助けて貰って。好きになっちゃうわよね?」
「だ、だってそれは仕事中の話で、部下として助けてくれてるだけだろうし、仕事以外で私を助けてくれるかどうかなんか分からないし!」
母親に追い込まれる娘。焦りがありありと分かる。
「フフフ、仕事でも何でも自分を理解してくれて助けて貰ったら好きになっちゃうわよねぇ、幸代♪」
完全に自分の気持ちを見透かしている美幸に恥ずかしくなり居ても立ってもいられなくなった幸代は立ち上がる。
「私、10歳も年上で釣りしか頭にない人と付き合える自信ないもん!」
そう言って二階に上がって行ってしまった。そんな娘にニコニコしながら夕飯の支度をする美幸。
「自信なんてなくても努力しちゃうものなのよ、恋する女は、ね♪」
何だか胸がワクワクしてきた美幸だった。