匂い-9
その夜の瀬奈は心なしか激しかった。体の上に乗り髪を振り乱しながら見つめてくる瀬奈に海斗は威圧的な何かを感じた。まるであなたは私のものよ、誰にも渡さない…そういった雰囲気を感じされた。
朝になるといつものように1人でない事に幸せを感じるような笑顔を浮かべ朝食を作り送り出してくれた。しかしどうしても最近たまに見せる異変に瀬奈が抱える問題の影が垣間見える。同棲して3週間が過ぎた。そろそろ瀬奈も素性について話してくれるかな…そう思っていた。
いつまでもこのままでいられる訳がないのは分かっている。海斗は密かに新聞の記事のどこかに行方不明者情報がないかチェックしていた。突然いなくなり家族だって心配しているだろう。捜索願いだって出してもおかしくはない。毎日チェックしていたが、まだ該当しそうな記事は載っていなかった。
「海斗さん、最近服装がビシッとしてますね。Yシャツなんてアイロンかかってるみたいだし。」
同行中、助手席に座っている幸代が言った。
「あ、ああ、それは…やっぱ身嗜みは大切だと思って最近アイロンを買ったんだよ。やっぱピシッとしてると気持ちがいいな。アハハ!」
「そうなんですか。私てっきり女でも出来たんじゃないかって思いました。」
「お、女!?ま、まさか!俺に限って??ハハハ…」
そんな海斗をジッと見つめた幸代。
「ですよね。」
そう言って何とも言えない顔をして見つめてくる。
「な、何だよ…?」
「別に…」
スッと顔を前に向けた幸代。海斗は言葉が出なかった。
(女は鋭いな…。気を付けなきゃ…)
ちょっとした変化を見逃さない女の勘は自分の釣りの勘にも匹敵するぐらい鋭いものだとつくづく感じた。
(彼女、出来たのかなぁ…。でもそしたら海斗さんの場合黙ってらんないから自慢するはずだし…。思い過ごしかな…。)
胸のモヤモヤが一日取れなかった。彼女が出来たからと言って自分がどうこう出来る問題ではない。かと言って出来たら出来たで寂しいような気がする。この時初めて自分ではっきりと認めた。自分は海斗が好きなんだと。