匂い-8
仕事を終え帰宅した海斗。
「ただいま〜!」
玄関にはすでに瀬奈が立って待っていた。
「お帰りなさい♪」
すぐにハグしながらキスをしてきた。キスの途中で海斗の匂いに気付く瀬奈。
「香水…」
「ん??」
「香水と…焼肉の匂い…。」
その匂いに気づいた。
「あ、ああ…、これは昼飯で幸代と焼肉食いに行ってな、幸代の奴が服に焼肉の匂いがついたからって車の中で香水ぶっかけたのがついたんだよ。いやー、あれは臭くて参ったよ。」
「ふ〜ん…。」
瀬奈の表情が曇っていた。微妙に引きつっているようにも見えた。
「ど、どうかしたか…?」
瀬奈はいかにも無理して作った笑顔で答えた。
「う、ううん?」
この時、海斗は気づかなかったが瀬奈は拳を握り締めていた。まるで何かを抑えているかのように。
「ご、ご飯…、出来てるよ…?すぐ…食べる??」
「あ、ああ…。」
「じゃあ用意するね…」
そう言ってキッチンへ向かった。海斗は手を洗い着替えてキッチンに行った。そこにはもういつも通りの瀬奈の姿があった。
食事をしながら会話する2人。
「でも焼肉デートする男女って特別な間柄だって良く言うよね??」
瀬奈が言った。
「あ、それと同じような事、幸代も言ってたな。そーいうもんなのか?俺はただ昼飯で焼肉食ったってだけの意識だけどな。そもそもデートじゃねーし!」
「海斗がそう思ってなくても幸代さんは違うかも知れないでしょ?」
そう言った瀬奈の言葉に何となく棘があるように感じた。
「だって仕事中だし。デートだなんて思ってねーよ、あいつも。」
やはり瀬奈の様子がおかしかった。どこか恐怖感…いや殺意さえ感じせる何かゾクゾクとするようなものを感じた。
「海斗は女心が分かってないんだから…。フフッ…」
笑っているが笑っていない…、そんな気がした。しかしその雰囲気も徐々に消えていき、海斗は気のせいかと感じた。