匂い-5
それから街のスポーツ店的な個人店を廻った。いつものパターンだ。変わった事と言えば幸代の姿勢だ。今まで仕事仕事的な会話しかしていなかった幸代が世間話を含めて先方とのコミュニケーションを取ろうとする姿が見られるようになった。注文などで不確かな事はすぐに確認を取り在庫状況などをしっかりと把握して話を進めるようになった。あの失敗が肥やしとなっているのだろう。すぐさま自分の姿勢を正す幸代に海斗は、誉めはしないが感心する。
「昼飯食うか?」
「はい。」
「何が食いたい?」
「任せます。」
いつもの事だ。ほぼ毎回同じ会話をするが、しないならしないで落ち着かない。幸代は何が食いたいと聞かれるのを知っていて答え、海斗は任せますと言われるのを知っていて聞く。そしていつも海斗が気分次第で店に入り幸代もついていく、それが恒例の事であった。
「肉食いてぇな…。焼肉行くか。」
そう言った海斗に幸代は驚く。
「えっ!?」
海斗が焼肉屋に行こうと言うなんて初めての事だった。たまにパスタを食べる事はあるが、たいてい寿司屋や魚料理の多い和食レストランばかりで肉をがっつくイメージがない。そんな海斗が焼肉屋と言い出して驚いたのであった。
「だ、だって海斗さん…、肉食べるんですか…?」
「あ?食うよ?」
平然と答えた。
「だって今まで焼肉とかお肉なんて食べた事ないじゃないですか??」
「あ?1人で出かけた時はたいてい肉食ってるぜ?」
「はぁぁ??」
海斗はニカッと笑った。
「いやさぁ、あれだけ釣り好きで魚魚言ってんだろ?肉より魚だ!みたいな。散々魚を推しておいて肉食うの、恥ずかしくね??俺のイメージがた落ちだろ?だから表立って肉を食わなかったんだ。」
「し、しょ〜もなっっ!!」
呆れ果てた幸代。
「だから誰の目も届かない時にガッツリ肉を食っておくんだよ。まぁそれにあれだけ魚のストックがあると早く消化しなきゃなんないから自ずと魚ばかり食う事になるしな。いや、魚は好きだぞ??でも毎日毎日だと…、その…、飽きちゃうんだよな!アハハ!!」
シラ〜っとした目で海斗を見る幸代。
「く、下らないプライド持ってるんですね…。カミングアウトしちゃえばいいのに。俺は実は肉体的が大好きだ〜!!みたいな!」
「しねーよ!奴らにナメられた目で見られたくねーしな!そんな目で見られたらワカメどころか今度はナマコを押し付けてやらなきゃ気がすまねーしな!」
「さ、最悪…。」
「あ、オメー、内緒だからな?言うんじゃねーぞ!?」
「はーい。じゃあ今日はゴチになりまーす♪」
「ちっ、そうきたか!しょうがねぇなぁ。乳がデカくなるまで食いやがれ!」
「!?まだ言う!?ムカつく〜。絶対巨乳になってやりますからね!」
「楽しみにしてるぜ!」
店に着き車を降りて店に入り2人はがっつくように焼肉ランチを楽しんだ。