匂い-3
海斗は話題を変えた。
「てかさぁ、おまえ、香水つけてる??」
「あ、はい…。」
少し恥じらいを見せた。
「今まで香水なんてつけた事なかったじゃん。どうした??」
入社以来、別に香水をつける理由もなかったし、服から柔軟剤の香りがするから必要ないと思いつけた事がなかった幸代は今日初めて香水をつけて出社した。
「だ、だって、この間、海斗さんが私の体臭がキツいって言うから…」
ワカメ事件の事を言っているのはすぐに分かった。
「あれは売り言葉に買い言葉っていうか…、冗談だよ、冗談!」
「でも気になっちゃうんです!夕方あたりになるとヤバいのかな、とか…。」
「全然匂わないって!いやマジ!」
弁解に必死な海斗。さすがに悪いと思ったらしい。
「でもやっぱり身嗜みはしっかりしないとなって思って。変な匂いですか?この香水…」
心配そうに聞いてきた幸代。
「いや?凄くいい匂いだ。」
「本当ですか!?」
「ああ。何かさぁ、ぶっちゃけムラムラしそうな…」
「!?や、ヤダァ…」
恥じらいを見せる幸代たが心の中ではガッツポーズをしていた。何故なら本で調べて選んだこの香水、男をその気にさせるのに効果的な香水だと書いてあったからだ。まんまと意図通りの反応に嬉しくなる。
「あー、ダメだ!しかも太股チラチラ見えるからムラムラしちまう!」
「お、襲わないで下さいね!?」
「た、耐えるよ…。セクハラどころじゃ済まなくなったら大変だ…」
海斗が自分に気を引いた事だけで嬉しかった。そういう女の子らしい所もあると言う事には本人は気づいていないが、海斗は幸代のそういう所には当然気づいている。気づいているからこそのこの対応だったのかも知れない。幸代の表情はすっかり和やかになっていた。
「スカート、似合いませんかねぇ…?」
着慣れない仕事でのスカート姿が心配の幸代。
「いや、たまんねーよ!いいよ、スカート!」
「もう…。似合ってるよって普通に言えないんですか〜?」
「う〜ん…、エロい!!」
「もう〜!」
恥ずかしくも嬉しさを感じる。エロいは海斗にとって最高の褒め言葉なんだろうと思った。自分を女として見てくれている事が分かり余計に喜びを感じた。