匂い-2
一時間ほど事務所で仕事をすると外回りの時間になる。
「おい、幸代!行くぞ?」
「あ、はい。」
荷物をまとめ海斗の元へ急ぐ。佐智代は手際が良い。何事においてもたいていモタモタする事はない。
「今日はおまえの好きなアントニーの仕事だぞ?嬉しいか?」
ニヤニヤしながら言う。
「もうそう言う考え、ないので。」
海斗はニヤッと笑った。
「じゃ、行くか。」
「はい。」
海斗の後ろについていく幸代に安田が言葉をかける。
「幸代、今日もデートで楽しそうだな!」
完全なる冷やかしだった。幸代は溜息をつき睨みながら言い返す。
「それってセクハラになりますからね?気をつけて下さい、フサフサじゃない部長?」
「なっ…!?」
幸代はプイッとそっぽを向いて事務所を出て行った。
「ハゲハラで訴えてやるぞっ!?」
薄い頭を撫でながら言った安田。何人かの社員が笑った。
「幸代ちゃん、なんか性格海斗さんに似て来ましたね!」
知香が聡美にコソッと言った。
海斗は幸代を載せて車を走らせる。
「もう、みんな冷やかし半分で!」
プンプンする幸代。デートの話をされると苛々してしまうのは本人が一番意識しているからだ。
「おめー、気が立ってんなぁ今日は。生理か??」
「!?違います!それもセクハラですからね!?」
「はっ??んなクダラネー事でセクハラで訴えられるなよ、どーせならもっと凄い事して訴えられてやるよ!オイこら!乳揉んだろか!?」
「きゃー!止めて下さい!!」
手を伸ばし胸の前で揉む素振りをする。
「それとも太股撫でてやろうか!?おめー、この頃スカート多いな??誘ってるんじゃないの〜?♪てかさすっていい?」
「ダメです!もぅ…!セクハラ言う相手間違えました!」
考えてみれば海斗の話の半分以上はセクハラまがいだ。一番質が悪くて言っても無駄な相手に言ってしまった事を後悔した。溜息をつき気持ちを落ち着かせてからボソッと言った。
「あ〜あ、私も知香みたいに可愛くさらっとかわせればいいんだけどな…」
知香の性格が羨ましく感じた。
「おまえが可愛らしかったら気持ちワリーよ。今ぐらいがちょうどいいぜ?いじりがいあるし。」
「別にいじられたい訳じゃないんですけど?」
「まぁ真面目な奴をいじるのも楽しいんだよ。それに部長なんて、ありゃツンデレ好きだな。おまえにキツい事言われてあれはあれで楽しんでるんだよ、きっと。」
「そ、そうなんですかねぇ…」
良く分からないが、でもやはり知香みたいな性格はいつも羨ましく思う。