〈抜け殻〉-1
(……麻里…子……お姉さ…ん……?…何処に……居るの……?)
微かに……春奈の耳に、麻里子の声が聞こえてきていた。
瞑っている目を開けて辺りを見回そうとするのだが、瞳孔は光を捉える事は無く、視界は真っ暗なままだ。
(……な…何なの?)
春奈は顔の皮膚に感じる違和感に気付いた。
耳や蟀谷(こめかみ)、そして目の周囲に触れる形で、自分は目隠しをされているのだと理解した。
口には相変わらずボールギャグの異物感があったし、腕や足を締め付けてくる“がさついた”ソレは、麻縄だとはっきりと分かった。
(そうか……まだ私は……)
両腕を左右に真っ直ぐに伸ばされ、その腕と平行になるように吊られた太股……それは、この地で初めて凌辱された時と同じ姿勢だと、見えずとも知れていた……春奈は今の状況に狼狽える事も無く、ぼんやりと現実を受け入れていた……。
それにしても、何故に麻里子の声が聞こえてくるのか……?
そんな事を考え始めたその時、暗闇の中に捜し求める姉の声のボリュームが上がった。
{い…好いッ!!おチ〇チン好いよぉッ!!}
ハアハアと息を乱して、はしたない言葉を叫びながら麻里子は悶えている……姿は見えなくても、その喘ぎ声に混じるグチャグチャという粘液の弾ける音で、あの堕落仕切った姉に群がる男達と、それらと交わる淫らな光景が脳裏に鮮明に浮かんできた……。
(……あぁ……そういう事か……)
鼓膜を直接に震わせるような声で、春奈はイヤホンの存在を理解した。
耳に感じる違和感は、目隠しだけでは無いのだと、無感動に納得していた。
……と、突然に両の胸に何者かの接触を感じ、それは実に優しい動きで柔肉を揉み解していく……その形からして掌だと分かったのだが、接触してくる感触に、無数の異物感が散りばめられているのが分かった……。
(な…なんなの……?)
違和感は異物だけでは無かった。
そのブツブツとした皮膚を持つ掌は、まるで涎でも分泌しているかのように、ヌルヌルと春奈の肌を濡らし、滑らかに裸体の上を滑り回るのだ。
胸から脇の下に滑り、そして背中を撫で回してから再び胸に愛撫を与えてくる。
この弄りは、全てを失ってしまった春奈の肉体を労るように、実に淫靡な曲線を描いていた。