私の王子様-6
そうだった……この母は怒っている時でも、表面上は笑顔なのだ。
ジェノビアは顔をひきつらせ、おずおずとカップを受け取る。
そのまま覚悟を決めてグイッと飲み干すと、あまりの不味さに全身が震え、鳥肌がぶわっと立った。
「ぅえ」
思わず姫らしからぬ声を漏らし、ぐったりするジェノビア。
それでも身体の気だるさが取れ、スッキリしているのは薬湯の効能のおかげだ。
「ホントにもう……姫ともあろう身分なのに成人した途端破瓜だなんて……(淫乱なところは姫様に似て欲しくなかったわ……)」
「ごめんなさい」
最後の方のゴニョゴニョした呟きは聞き取れなかったが、やはり姫としては結婚までは純血を保っているべき、という事なのだろう。
いつもは口直しにくれる飴玉も無く、陰険なお仕置きにジェノビアは素直に謝った。
「でも、お母様。ノービィはおじ様のお嫁さんになるから……いっしょでしょう?」
未来の旦那様なのだから早めに身を捧げても良い、というジェノビアの主張にステラは眉を寄せる。
「そういう問題ではありません」
「……はぁい」
ビシッと指を突き付けられたジェノビアはしゅんとしてしまった。
「でも、女として言わせて貰えば……良かったわね」
ステラは突き付けた指でちょんっとジェノビアの鼻を弾く。
ジェノビアがデレクシスに好意を持っているのは、誰が見ても明らかだった。
それは幼い子供が懐くレベルではない、という事にいち早く気付いたのは母親であるステラ。
愛娘の本気で一途な恋に人知れずエールを送っていたのもステラ。
母として複雑な思いをしつつも、女としての幸せを掴みかけている娘に祝福をする。
「お母様ぁ」
少しは認めてくれている母親に、ジェノビアは安堵して泣き笑いの顔になった。
「でもね?ノービィ。デレクシス様のお嫁さんになる事はとても大変な事よ?」
好き、という気持ちだけではどうしようも出来ない現実問題がある。
「ええ!勿論、覚悟も準備も出来てますわ」
ジェノビアはぐっと両手を握って力強く頷いてみせた。