異空間の旅・雷の国-3
「キュリオ殿の書簡ってのは俺じゃないとわからない内容か?」
差し出された手紙を受け取り、己の名が記されているの確認した雷の王は再度ブラストへと顔を向けた。
「是非エデン様に読んでいただきたいのですが、お急ぎの用があられるのなら・・・大臣殿よりご返答いただいてもよろしいかと思います」
「すまないな・・・そうしてもらえると有難い」
エデンが頷き後方を振り返ると・・・背後から武装した男が現れ、彼のそばで片膝をついた。そして差し出された悠久の王の書簡を大事そうに受け取るとそのまま門の中へと消えて行くのだった。
「・・・雷の国は皆鎧着てんだな」
不思議そうに呟いたカイは普段の悠久の家臣たちの姿を思い浮かべてみる。大概みな軽装で、重々しい武装をしている者はほとんど見かけない。それに比べて死の国と雷の国はどこか違う。なぜその衣装が定着したのかとなると遥か遠い歴史へとつながるのかもしれない。
(<革命の王>って言ってたよな。争いごとでもあったのか?)
またもカイは目の前にいるエデン王の逞しい体に目を向けた。奇跡的な肉体美がとても羨ましく、有無を言わせぬその気迫に武人としての憧れがそこにはあった。
そしてカイの視線に気が付いたエデンは・・・
「おいチビ、お前躾がなっていないようだな」
「・・・っ!」
わずかに眉間に皺を寄せた彼は切れ長の鋭い瞳を小さな剣士へと向けた。カイはというと鋭いエデンの眼光に睨まれ、怯えを含んだ瞳で震えあがっている。
「申し訳ありませんエデン様・・・こいつの躾がなってないのはこのブラストの責任でございます」
一礼し深くわびるブラストの背を見てこの時、自分の行いが彼を苦しめているのだと初めて気が付く。
(おれのせいで・・・)
「・・・お、俺も申し訳・・・ございません」
いつも態度のことを言われると相手が誰であろうと突っぱねていたカイだが、いままで見たどの国の門番たちも己の王へ敬意を払い礼儀正しい振る舞いを見せてくれた。
(きっとこのままじゃダメなんだ・・・)
居たたまれず衣の裾をぎゅっと握りしめたカイは俯いてしまった。
「そういえば・・・剣術の教官やってるって言ったか?
ってことはこのチビは剣士か」
「ええ、まだ見習いですが・・・」
ブラストの言葉になるほど・・・と視線を向けるエデン。
「チビ、お前のその瞳悪くない」
上から降り注いだ偉大な人物の声にはっと顔をあげるカイ。
「立派な悠久の剣士になれ。役目を与えられて一人前というのではない。やり遂げてこそ一人前というものだ」
「・・・やり遂げてこそ・・・」
茫然と雷の王の言葉を聞いていたカイだが、その言葉はとても重く心に自然と流れ込んでくる不思議な感じだった。
何かを感じ取った様子のカイに、ブラストは嬉しそうに口元へ笑みを浮かべる。
(さすがはエデン様・・・このお言葉がカイの何かをきっと変えてくれるだろう)
「・・・そろそろ悪いが俺はこれで失礼する。じゃあなブラスト」
「こちらこそ、貴重なお時間を・・・」
再度深く頭を下げるブラストたち。それをみた彼は小さく頷くと・・・重量感のある白銀の鎧が高貴な金属音を奏で、力強い動作でマントを翻しその場を立ち去ってしまった。
(ありがとうございます・・・エデン様)
いつまでも見えなくなった彼の背中を感謝の意を込めてみつめていたブラストは、興奮冷めやらぬテトラの一声で我に返った。
「あのお方がエデン様・・・在位三百年を越える第四位の王!!なんて素晴らしい・・・」
「第四位・・・?」
それまで黙っていたアレスは、少し前に語っていたブラストの言葉を思い出した。
(たしかあれは・・・吸血鬼の国を訪問した時のこと・・・)
"そうだ!あれは第四位か五位の王がいるところだな!!"
雷の王が第四位だと
すると、必然的に冥界のマダラ王が第三位ということになる。
(精霊王が第一位でキュリオ様が二位・・・マダラ王が三位で・・・エデン王が四位、そしてヴァンパイアの王が五位・・・か・・・)
(先輩の興奮状態からみても他国の王に会える機会なんてそうそうないんだ・・・でも、教官は?どうみても二人は知り合いのような口ぶりだった・・・そして<革命の王>を語った時のあの悲し気な表情は一体・・・)
彼が天才と言われる由縁はその魔導の力だけではない。若干五つにしてここまで頭が回り、大人顔負けの思考力・洞察力を併せ持っているからなのだ。
(ブラスト教官はきっと答えてくださらない・・・ガーラント先生なら何か知っているだろうか・・・)
任務を無事終えた一行は、帰路へ着くため今度はカイを先頭に、アレスは手にしていた加護の灯を彼へとそっと渡す。そして普段使者では知りえない王の謎に触れてしまったアレス。