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新【翼の記憶】
【ファンタジー 恋愛小説】

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花と名に込められた想い-1

加護の灯を掲げエデンの言葉を胸に力強く悠久の門を目指して歩き出す小さな剣士と、いくつかの王への疑問と謎に遠くを見つめる小さな魔導師。


(やり遂げる事が・・・)


(私はまだ何もわかっていない・・・)


何かを見出した少年と、大きな壁の前に立たされた少年。彼らのこれからの懸命な働きが王と・・・やがて姫君となる小さな少女の支えとなるか障害となるか誰も知らない――――


―――中庭を歩き美しい花々を眺めているキュリオと赤ん坊の前に太陽のような色合いの背の高い大輪の花が視界に広がってきた。


「・・・」


赤ん坊はその花をじっと見つめると、そのまま自分を抱いている綺麗な銀髪の王の顔を見上げる。


「・・・この花が気になる?」


優しく笑った銀髪の王は腕の中の彼女が良く見えるように、一歩二歩と近づいてみる。


「この花は日の光を仰ぐ習性を持っているんだ。ごらん、みな同じ方向を向いているだろう・・・?」


そこまで言ってキュリオはふと遠い昔を思い出すように目を細めた。そして・・・先代の悠久の王にこの庭園の話を聞いた時の事を思い返す。


『あの太陽のように大きな花は日を仰ぐ習性を持っているんだ。・・・数代前の<ディスタ王>の時代に植えられたものだと聞いている。・・・どこかの国の王が遥かな地から持ち帰ったものだそうだよ』


『日を仰ぐ習性・・・とても珍しい花が存在している地なんですね。持ち帰った王とはどなたですか?』


驚きつつも興味深く話に食いついてくる、まだあどけなさを残す銀髪の青年に当代の王は優しく微笑んだ。


『この花が咲いている地に私たちは行けないのだよ・・・とある女性がこの花に似たその王に想いを託して贈ったものらしい』


『私たちはそこに行けないのですか・・・貴方様でも?太陽のようなこの花に似た王に想いを託して・・・?』


銀髪の青年はその女性が託した想いがなんとなくわかっていた。そんなことをするのはきっと・・・愛情表現か何かだろうと。


『そう、私でも行けないんだ。・・・託した想いは"私はあなただけを見つめる"。太陽とその日を仰ぐこの花に自分と彼を重ねていたのだろうね・・・』


『・・・』


それを聞いて黙ってしまった銀髪の青年に当代の王は心配そうに顔を覗きこんだ。


『キュリオ?どうしたんだい?』


『申し訳ありません・・・なんだか胸が苦しくて』



『・・・そうだね』



俯くキュリオに悲し気に瞳を揺らした心優しい当代の王。



『その二人がどうなったか・・・彼の後の王たちならば何か知っているかもしれないね。』



『・・・っ!それはどこの王なのですか?』


はっと顔をあげたキュリオに先代の王は今までの優しい微笑みを消し、一瞬真剣な表情を見せ口を開いた。




『・・・それはね・・・』




―――そこまで思い出し、キュリオは現実へと引き戻された。腕に抱く小さな少女が身を乗り出してその花に触れようとしたからだった。


「・・・っ」


あやうく彼女を落としてしまいそうになったキュリオは慌てて小さな体を抱え直す。


「元気がいいのは良い事だが・・・それは私の腕の中だけにしておくれ」


愛しさを込めて彼女のこめかみに口付けを落とすと、ふと先代の言葉が蘇る。



(日を仰ぐ習性・・・私はあなただけを見つめる・・・か・・・・)



「この花はなんと言ったかな・・・向・・・日、葵?」



うろ覚えで先代が地面に書いてくれた見慣れない字を懸命に思い出す。



(最後の文字がとても綺麗で深く心に残った印象がある・・・単体でアオイと読むのだと彼は言っていた・・・)



「アオイ・・・」



「・・・」



ボソリと呟かれたキュリオの言葉に動きをとめた赤ん坊。気付かない様子のキュリオは彼女の体の向きを変え、自分の視線と合わせるように幼子の瞳をのぞきこんだ。


「・・・お前には日の光を浴びてあたりを照らしてくれるこの花のように育ってほしい。そして私は・・・ずっとお前を見つめているよ。お前の名前はアオイだ」


「・・・っ」


黙ってキュリオの言葉に耳を傾けている少女。そしてその銀髪の王の言葉を最後まで聞くと・・・澄みきった小さな瞳から一筋の涙がこぼれ落ちた。



(初めて私の前で涙を見せた・・・君は何を思って泣いているんだろう・・・)



「・・・私たちはずっと一緒だよ」


優しい彼の指先が熱い目尻の涙をぬぐい去って行く。小さな彼女はキュリオにしがみ付くわけでもなく、ただただ涙を流している。



「お前の不安はすべて私が引き受ける・・・だからもっと私に甘えて」



昔聞いた二人の物語の結末はどうだったかわからない。ただ、その女性が彼の王へと託した想いもきっとこのようにあたたかで愛情に満ちたものだったに違いないとキュリオはそう確信した―――


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