上司と部下-5
幸代は自分のデスクに座り込み仕事を始めた。聡美に変な事を言われて頭の中が混乱した。
(その後って何よ…、その後って。私と海斗さんが男女の関係になっちゃうって事!?あるわけないじゃない、そんないきなり!!)
考えただけでも恥ずかしくなってしまう。しかし聡美がそんな事を言ったのには理由があった。それは幸代の服装だ。いつもは仕事に差し支えないようズボンを着用する事が多い幸代が、今日はスカートで、しかも微妙にお洒落な服装をして出勤してきたからだ。聡美はそれを見逃さなかった。幸代も確かに朝の服選びに意識はした。しかしそれが周りから見れば分かりやすい事だとは思いもしなかった。何か見透かされたようで恥ずかしかったのだ。
しかも下着までおろしたてのものを着てきた。マリンブリーの可愛い下着だ。何が起きてもいいようにと思っていい下着を着てきた。自分でもその後を考えていた事も恥ずかしさを増させた。そしてマリンブルーは海…。海斗を意識してその下着を選んだのかどうかは幸代本人にしか分からない事であった。
それから先日とはまた違う意味で仕事が手につかなくなってしまった幸代だが、浮ついているとまたミスを犯してしまうと気持ちを入れ替え仕事を続けた。
昼になった。
「じゃあ行くか、幸代!」
海斗が言った。
「あ、はい…」
すぐに終えられるよう、早めに書類作成を終え、メールを開いたり閉じたりしていた幸代はすぐにパソコンをシャットダウンして立ち上がる。
「頑張ってネ♪」
知香と聡美が小さな声で言った。苦笑いをし先に事務所を出た海斗を追う。自分がこんなに意識しているのに海斗は普段通りな事に少し悔しさを感じた幸代は早足で海斗を追う。
「じゃあ出発!」
幸代を乗せ車を走らせる海斗は普段通りのかっこうである。
(何か私だけ意識してて馬鹿みたい。)
そう思ったが、胸の高鳴りは感じていた。サッカーを通じて何か気持ちを共感できればいいな、そう思っていた。
スタジアムの駐車場についた。すると海斗からある物を受け取る。
「あ、あれ?これ、限定ユニフォームじゃないですか!?」
広げて驚く。入手困難なあのユニフォームだった。
「ついでに俺たちの分ももらっおいたんだよ。ま、本当は俺のだけ貰おうとしたんだがな、柴原が可愛い部下さんにもってもう1枚くれたんだよ。どうせだからこれ着て応援しようぜ。」
「はい!」
嬉しくなってしまった。海斗はああ言ったが、きっと初めから2枚頼んでおいたに違いない。またいつもの照れ隠しでああ言ったのだろうと分かる幸代。何だかんだ言っても自分の事を考えてくれている海斗が嬉しかった。
「おっ!似合うじゃん!」
「海斗さんも似合ってますよ!」
お互いがユニホームを着てスタジアムまで歩く。
「何か楽しみになってきたよ。」
「私もです!」
幸代は仕事中には見せない最高の笑顔を浮かべていた。