上司と部下-10
会社に戻った時には夕方17時を過ぎた頃だった。出迎えたみんなに冷やかされ恥ずかしい思いをした。
「タブレットで試合観てたらさぁ…」
知香が何やら気になる事を話してきた。
「な、何よ…」
事務所にいた社員が全員ニヤニヤしていた。一体何を見たのかとハラハラする幸代。知香の顔が更にニヤニヤした。
「点入った時、2人さぁ…抱きあってたよね〜!」
「!?」
まさかそんなところが映されているとは思わなかった。
「ち、違うよ!あ、あれは…」
しかし隠しようがない。どんないい訳をしてもその事実は変わらない。
「海斗さん、私の事抱きしめてくれた事ないのに幸代ちゃんと…、酷〜い♪」
完全な冷やかしだった。しかし冷やかしてはいけない相手だという事を忘れていた。
「何だよ〜。いつでも抱きしめてやるぞ??知香ちゃ〜ん♪」
手を広げて知香に迫る海斗。
「や〜ん♪」
おどけながら逃げる知香を追いかける海斗は本気だった。
「嫌〜っっ!」
そんな海斗を男性社員が必死で取り押さえた。
「浮気はダメよ、海斗さん♪」
ニコッと笑う知香。
「るせーわっ♪おい、これやるよ。」
海斗は知香に手を伸ばした。
「わーっ!アントルーズバージョンのフナッシーストラップ!!ありがとー!」
喜んで受け取った。
(しっかり知香を喜ばせるもんも買ってきてやるよ…。)
しら〜っとした目で海斗を見つめた幸代だった。
「で、楽しかったか、観戦は?」
安田が聞いてくる。
「めっちゃ興奮したよな!?」
「はい!色々と勉強になりました。」
「そうか。じゃあ良かったな!」
安田は幸代の表情がどこか変わったような印象を受けた。社会人として何かを得たんだろう、そう思った。
(これを機に、あの2人がくっついてくれたらいいのにな!)
海斗と幸代を見てそう思った。
「さ、あと少し仕事して餌買って帰ろっと!」
海斗がデスクに向かう。
「また明日釣り行くのか??」
「当然じゃないっすか??何寝ぼけた事言ってんスか??」
「ハハハ…(幸代が釣りに行くとも思えないし、2人がくっつく事はないな…)」
結局は釣りから離れられない海斗に苦笑いを浮かべた。
幸代もデスクに戻り仕事を始めようとした。すると聡美がヒソヒソと話して来た。
「どうせなら夜までデートすれば良かったのに♪」
「!?ば、馬鹿じゃん!?」
顔を真っ赤にして動揺してしまった。
「じゃ、お疲れっす〜!」
時間が来るとさっさと帰って行った海斗を見て心の中で言った幸代。
(気をつけて下さいね。)
と。幸代にとって来週から、今までと違う気持ちで海斗と同行する事になるのであった。