大きな背中-9
それから金曜日まで、特に何か動いている様子も見れない海斗に不安を感じる。しかし自分には何も出来ない状況に幸代は何も言えなかった。
夕方15時になった。
「じゃ、行くぞ。」
「は、はい!」
慌てて海斗を追う幸代。社員達は心配そうな顔で見つめていた。
「大丈夫かなぁ、海斗さん…」
知香が祈るような顔で海斗を見つめた。
「大丈夫だよ、海斗さんなら。うまくまとめるよ。」
同僚の事務員、津田聡美が言った。そんな心配をよそに海斗はさっさと車に乗り込んだ。
「ちょっと寄り道してくわ。」
「あ、はい…。」
海斗は車を走らせ駅に向かう。
「わりいな!頼むぜ!」
駅で待っていた青年を車に載せた。
「海斗さんにはいつも世話になってますからね。」
「確かに世話してやってるな!ハハハ!」
笑い飛ばした海斗。後部座席に座る青年をバックミラーでチラッと見るとなかなかのイケメンだった。しかしそのイケメンが誰なのか、また何をしに一緒に行くのか見当もつかなかった。それから無言のまま、約束の時間にあの親子の家についた。
チャイムを鳴らすとすぐに玄関のドアが開いた。今日も中には通す様子はない。怪訝そうな顔で母親が応対する。
「和馬君は帰ってますか?」
「ええ。和馬〜!」
奥から面倒臭そうな声がした。そして不機嫌そうな顔をして現れた。
「おじさん、約束はちゃんと…」
和馬が、海斗が連れてきた青年の顔をじっと見つめる。
「やぁ!」
青年がニコッと笑い手で挨拶する。するとみるみるうちに和馬の顔が驚きに変わって行く。そして口を大きく開き声を上げた。
「し、し、柴原選手!?」
和馬はそう言って後退りする。驚いたのは幸代も同じだった。
「えっ??」
正直、幸代はサッカーに詳しくない。しかし青年の顔をじっと見るとどこかで見た事があるような顔だった。
(あれ…?誰だっけ??柴原選手…、サッカー??…!!あっ…!この間日本代表に初めて選ばれたってテレビで特集してたあの柴原選手!?)
ようやく思い出した。日本代表の次世代の司令塔として活躍が期待される柴原岳だ。そう言えば彼はこの真島アントルーズに所属している。そんな有名人が何故ここに…、そして何でも海斗と知り合いなのか全く分からず、ただただ驚いていた。