大きな背中-7
車に乗り宏の後ろを走る海斗。幸代は子供とあんな約束をしてしまい大丈夫なのかと心配になっていた。客の家が完全に見えなくなった頃、海斗が深く溜息をついた。
(…)
何か怒られるのかと思い背を正す幸代。ビクビクしていると、それまで静かだった海斗がネクタイを緩めた。
「何なんだよあのガキは!?」
ハンドルをバンと叩く。思わずビクッとする幸代。
「くそ生意気なガキだぜ、全く!ガキのくせして体で払えだと!?あのバハァ、一体どんな教育をしてるんだ!?あーゆーのに限って旦那がいない時に男を家に連れ込んでズッコンバッコンしてるんだよ!マジムカつくぜ!!」
先ほどの態度が嘘のようだ。柄にもなく紳士的に振る舞ったストレスか。鼻息を荒げて吐き捨てた。
「お前はあんなガキに体で払えとか言われて何とも思わないのか!?」
「わ、私は何を言われても余裕なかったから…。」
「だよなー、いっぱいいっぱいだったもんなぁ。本当にガキに体で払いそうな勢いだったよな!」
「そ、そんな訳ないじゃないですか!」
「あれが怖いオニーサンだったらどうだったよ?完全に体で払わされてたよな。」
「…」
確かに弱っていた自分はそれで許して貰えるのならと判断を誤っていたかもしれない。幸代は何も言えなかった。
「仕事のミスは仕事で返すんだよ!体で返すもんじゃない。」
「えっ…?」
振り向いた幸代の目に映ったのは自信満々の海斗の顔だった。
「ど、どうするつもりですか…?」
不安げに聞いた幸代。
「まぁ見てなって。俺は守れない約束はしない。必ず守る。守れなそうな約束はしないが、相手の要望に応えようと努力はする。その結果それが不可能であった時でもその努力は必ず相手は認めてくれる。そうして俺は信頼を築いて来た。今回その努力を怠ったお前に非がある。そこは忘れるな?」
「はい…。」
海斗の言葉が重く響く。
「まぁ今回はあのガキの度肝を抜いてやる…!ククク」
余程の策がある様子だ。しかしもう限定ユニフォームが手に入らない以上、子供を納得させる事は困難だ。やはり幸代はクビを考えた。
「おい、今回の尻ぬぐいは体で払ってもらうぞ?」
「はい…。」
「いいのか??」
「えっ…?あ、だ、ダメですそんなの!」
思わずハイと答えた自分の弱さを痛感した。
「弱ぇぇなぁ、まだまだ。ハハハ!」
海斗は笑い飛ばす。そうして宮島スポーツに戻って来た。