大きな背中-6
もう一時間は経つだろうか…、ずっと玄関先で怒りを収める事が出来ない客。すると当の本人、小学校の男児が帰宅してきた。ユニフォームの話だと分かると顔を真っ赤にして騒ぎ始めた。
「あの限定ユニフォームを着て試合するのは土曜日の一試合しかないんだ!その試合に同じユニフォームを着て見にいきたかったのに!」
「申し訳ごさいません!」
ひたすら謝り頭を下げる。気付くと海斗も頭を下げていた。
「ねーちゃんが頼み忘れたの!?どーしてくれるんだよ!!」
「申し訳ごさいません!」
「ごめんで済めば警察いらないんだよ!!体で払え!体で!!」
子供のとんでもない言葉に母親が怒る。
「な、なんて事言うの!!」
子供の頭をひっぱたくと子供は号泣し始めた。
「うわぁぁん!!」
海斗は頭を下げながら思う。
(じ、地獄絵図だな…。)
近所の人も覗いていた。もう収まりがつかない現場に困り果ててしまう。
「もう最悪!!お金さえ返してくれればいいからもう結構です!!」
母親はそう叫んだ。その時だ。
「僕が何とかしますよ。」
海斗がそう言った。宏を始め母親までもが海斗に顔を向けた。
「だってもうないんでしょ?」
母親が疑いの眼差しで海斗を見る。
「はい。予約分は完売してます。」
「じゃあどうやって…。」
「お客様は小さな頃から宮島スポーツさんを愛用していただいていたとおっしゃいました。あちこちに大型店が出来て価格も安い。それでも宮島スポーツさんを愛用下さったのは信頼と温かさだった事でしょう。今回の件は非常に申し訳なく思ってます。しかしあなたが抱いていてくれた信頼を決して裏切ることはしません。金曜日、金曜日まで待って下さい。私が宮島スポーツの信頼をあなたに取り戻させていただきますから。」
真剣な顔でそう言った。
「ど、どうかしらね…。」
腕を組みそっぽを向く母親。海斗はしゃがんで子供に話しかける。
「なぁ僕、金曜日まで待っててくれ。そしたらおじちゃんな、君に物凄いものを持ってきてやるから。」
「ほ、ホントか!?」
「ああ!」
「じゃあ指切りしようぜ!」
「ああ。指切りげんまん嘘ついたら針千本飲〜ます!指切った!」
子供と指切りをした海斗は子供の頭を撫でて立ち上がる。
「今回は誠に申し訳ございませんでした。金曜日、もう一度お伺いします。」
そう約束してその場を収めて帰って行った。