大きな背中-5
海斗が運転する車は宮島スポーツに到着した。いつもはなニコニコ出迎えてくれる宏だが、今日は険しい表情で2人の乗る車を睨みつけていた。
2人が車を降り店内へ入ると、すぐさま怒りを表して言葉を放つ。
「今までこんな事はなかっただろう!」
海斗には怒りずらいせいか幸代だけに視線を向けて怒鳴る。
「申し訳ごさいませんでした!」
深々と謝罪する幸代。
「俺は今まで大事なお客様との信頼でこの店をやってきたんだ!それを無くしたら俺達みたいな小さな店はデカい店にあっという間に潰されちまうんだよ!分かってるのか!?」
「申し訳ごさいませんでした!」
それしか言葉が浮かんでこない幸代は足が震えていた。
「お客様の親御さんも子供に泣き叫ばれて困ってらっしゃる。今から一緒に来てもらうぞ?」
「はい。分かりました…。」
海斗と幸代は宏の運転する車の後ろをついて行く。
「電話では伝わらないもの、あるだろう?」
「はい…。」
電話でのお叱りよりも顔を合わせてのお叱りの方が、いかに自分が相手に迷惑をかけたのかが身に染みて分かる。自分の適当な仕事ぶりを深く反省した。
やがて客の家に着く。玄関での対応を強いられた。
「大丈夫だって言ったじゃないですか!?お金だって払ったでしょ!?無いなら無いで初めから断られた方が良かったわよ!おかげで子供に泣き叫ばれてこっちは大変なのよ!?」
「申し訳ごさいません!」
宏も深々と頭を下げる。
「宮島スポーツさんには私が小さな頃からお世話になって大好きなお店だったのに!そんな信頼できないお店だったなんてね!!」
「本当に申し訳ごさいませんでした!」
ひたすら頭を下げる宏に幸代は自分のせいで宮島スポーツが信頼を無くしてしまうという取り返しのつかない事をしてしまったのだと痛感した。
「わ、私が…」
幸代の言葉を遮る客。
「あんたは黙ってて!何もできないくせに!!」
あまりの迫力に委縮し言葉が出て来なかった。それからも客の怒りは収まらなかった。玄関先で客の大きな怒鳴り声が響いていた。