大きな背中-4
部長の安田を含め、事務所にいた社員全員が同じ事を思っていた。
(か、海斗があんな真剣に仕事の話をするなんて…!どうしたんだ…!?)
体の調子でも悪いのかと思ってしまうぐらいにきっちりと幸代を教育している海斗に目を疑った。事務所はある意味珍事にシーンと静まり返っていた。
「ほら、電話しろ。」
「はい…。」
幸代はフラフラと自分のデスクに座り震える指先で番号を押した。
「もしもし、FEELDの田崎と申しますが…。いつもお世話になっております。…はい。…はい。じ、実は先日お伺いした時にご注文頂いた真島アントルーズの限定ユニフォームの事なんですが、私の手違い…、いえ、発注を入れるのを忘れてしまい納品することが出来なくなってしまいました…。はい!申し訳ごさいません!…はい!…はい!私の責任です!申し訳ごさいません!」
幸代の声を聞いているだけで宏が相当怒っている事は安易に想像できる。電話を相手に何度も頭を下げ謝罪する幸代が実に痛々しく思えた。そんな姿を心配そうに社員達はじっと見つめていた。
「海斗さん…助けてあげなくていいんですか…?」
心配そうに知香が海斗に言った。海斗は幸代を見ながら呟いた。
「フフフ、ちゃんと自分が忘れたと言ったよ。下手な嘘つかないで正直に、な?」
「えっ?」
不思議そうな顔で海斗を見つめる知香。そんな知香に視線を向けニッコリと笑いながら言った。
「やっぱ可愛いね、知香ちゃんは♪」
「は、はい…??」
何故このタイミングで??そう思っていそうな知香の顔を見た後、海斗は自分のデスクに戻った。
やがて電話を終えた幸代が青ざめた顔をしながら海斗のもとへやってきた。
「すみません。今からお客様のところへ謝罪しに来いと…。」
聞き取るのがやっとの声だ。そんな幸代を海斗は見つめる。
「じゃあしっかりと謝ってくるかの〜!いくぞ。」
「は、はい…。」
「じゃあご覧の通り、行ってきます。」
安田に言った。
「あ、ああ。頼んだぞ?」
「一緒に行きますか??」
「い、いや、遠慮しておくよ…。」
「ですよね〜。では!」
事務所を出て行く海斗の後ろに小さくなりながらついていく幸代。この時点でクビを覚悟していた。
車に乗り込んだ2人。
「すみません…。」
しょんぼりしながら謝る幸代。
「なぁ、クビとか考えてる??」
「えっ!?」
ドキッとした幸代にニヤニヤしながら言った海斗。
「まぁ部下に頼られる勉強だな。お前も将来部下に頼られた時、どうしたらいいのか良く見ておけよ?」
「は、はい…。」
その言葉に決してクビになんかさせないよというメッセージを感じた幸代だった。