大きな背中-3
海斗が会社に帰ると、まるで捨てられた犬が飼い主を見つけたかのような表情でとんできた。
「ただいま戻りました。」
何事もなかったかのように事務所に入る海斗。
「海斗さん!!」
「何なんだよ。何をそんなに慌ててるんだ??」
相変わらず涙目だが、話せる状態までには落ち着いたようだ。
「この間、宮島スポーツに行った時、真島アントルーズの限定ユニフォームを注文されてたのを私…忘れて。慌ててあちこち電話したんですが、どこの支店にもなくて…。キャンセル待ちも相当いるらしくて。」
「だろうな。限定だもん。」
「…はい。」
怒りもせず、馬鹿にもせずそっけなく答える海斗に幸代の声は小さくなる。
「で、もう商品手配は無理なんだろ?じゃあ宮島スポーツさんに謝りの電話はしたのか?」
「いえ…まだ…。」
「何で?」
「え…そ、それは…」
「叱られるのが怖いか?嫌か?」
「…」
「今すぐ電話しろ。いいか?宮島スポーツさんへだけの迷惑ではない事を分かってるのか?その先のな、注文したお客様が見えてるのか?さらに言えば子供に泣いて騒がれる親の事も考えてるのか?お前と宮島スポーツさんだけの問題じゃないんだ。言いずらい事こそ早く連絡する必要があるんじゃないのか?」
海斗の言葉が重くのしかかる。しかし電話をする勇気が出ない。幸代はその場に立ち尽くし俯いていた。
「一緒に謝りでも何でもしに行ってやる。でもな、これはお前が大手の仕事にばかり目を輝かせて、小さな仕事を甘く見た結果だ。予約状況も電話で確認しなかった。その時点でもう無かったらどうしてたんだ?ちゃんと確認してないならないできちんと説明してれば何も問題はなかったし、あったならきっちりと押さえておけたはずだ。お前は予測で仕事をしてお客様と適当な約束をした。その事についてきちんと謝れ。分かったか?」
幸代は震えながら力なく頷いた。