大きな背中-2
海斗から電話が返って来たのは午後になってからであった。ワンコール鳴ったか鳴らなかったかで電話に出た幸代はそれだけ待ちわびていたと言う事であった。
「どうかしたか?」
その声に何とも言えない安心感を得たとともに、急に涙が溢れてきた。
「海斗さん、私…私…うわぁぁん!」
「な、何なんだよテメー!何でいきなり泣いてんだよ!?」
いきなり電話の向こうで泣き始めた幸代に驚く。しかしすでに海斗には何となくその理由に思い当たる節はあった。
「わたしぃ…どうしよう…わぁぁん!」
「お前、野々村か!?」
「う゛ぁぁぁ!!」
泣き止まない幸代に暫く泣かせて落ち着くのを待つ事にした。どうせ何を聞いても泣いていて答えられそうにもないからだ。面倒臭くなった海斗は幸代の鳴き声を聞き続け可笑しくなってしまう。
(くくく、あの幸代が子供みたいにワンワン泣いてらぁ!くくく!)
笑い声を隠すのが大変だった。しかしいつまで経っても泣き止まない幸代にいい加減飽きてきてしまった。
「あと1時間ぐらいで帰るから、それまで待ってろ。」
「はいぃっ…ヒック…」
溜息をついて電話を切った。
「未来ばかり見て足元をしっかり見ないからそーなるんだよ。」
大きな仕事にばかり憧れ、小さな仕事を軽く見ている姿勢が見られ幸代には気になっていた。海斗は小さな仕事を大切にする姿を見せてきたつもりだが幸代は分かっていなかったようだ。
「俺には背中で見せる力はねーようだな。ま、無理だな、俺には!ハハハ!」
いちいち口で言うのが自分に合っていると再確認した。
「だいたいちょっとぐらい学歴があって美人で調子に乗ってっからこーなるのさ!いい薬だ。弱ってるあいつを楽しんでやるぜ!」
幸代には会社を辞めたいぐらいの大問題であったが、海斗にしてみれば仕事をしていればその位の事は頻繁にあるという認識だ。2人の違いは経験だ。
「さてと…」
海斗の頭の中にはこれからどういう対応をするのがベストなのかを思い浮かべていた。