大きな背中-10
海斗はしてやったりの顔をして和馬を見ていた。母親も口をつぐ開けてポカンとしていた。息子の部屋による貼ってあるポスターに映る選手が目の前にいるからだ。
「う、嘘でしょ…?」
こちらは有名人を前にと言うよりも、あまりの甘いマスクにうっとりしている様子であった。
そんな和馬に歩み寄り、そしてしゃがんだ柴原。
「これ、あげるよ。」
柴原は袋の中からユニフォームを取り出し和馬に渡した。恐る恐る手を出し受け取る和馬。広げて見るとあの限定ユニフォームだった。
「うわ!す、スゲー!!」
飛び跳ねて喜ぶ和馬を見て柴原はニッコリと笑う。
「それはそこらで売ってたレプリカとは違い、選手が実際に着るオーセンティックのユニフォームなんだよ。特別にチームから貰って来たんだ。」
「マジですか!?うわっ!サインまで!!」
もはや何も文句はないようだ。母親はまだうっとりしていた。幸代はその様子を呆然と見つめていた。
「明日、試合に来てくれるの?」
「はい!これ来て行きます!お母さんと!」
「そうか!じゃあお母さんにも着てもらわないとね。」
柴原はもう1枚限定ユニフォームを取り出し母親に渡した。
「あ、ありがとうこざいますぅ…」
もはや旦那を捨てて柴原に恋をしてしまいそうな勢いだった。和馬はずっとはしゃいでいた。
「おじちゃん!スゲーな!!見直したぜ!!」
海斗は親指を立てて言った。
「だろ??」
和馬も親指を立ててウィンクした。もはや親子には何の憤りもなかった。逆に帰ろうとする海斗に頭を下げて感謝の言葉を口にした。
役目を終え車に乗る3人は親子に手を振りながら車を走らせたのであった。