重なり-4
いつの間にか、迫る宵のように暗くなっていた戸外が突然眩しくフラッシュし、その直後耳をつんざくような雷鳴が轟いた。そしてバケツをひっくり返したような激しい雨が降り始めた。
階段を駆け下りていた冬樹は、下のフロアに立って、大きく手を広げたうららに止められた。「待って!」
冬樹は涙で汚れた顔でうららを睨むように見つめ、足を止めた。
すぐに後ろから勇輔が階段を駆け下りてきた。
「兄貴!」
「う、うらら」
「これ……」うららは冬樹の手紙を勇輔に差し出した。「店のショーケースの下に落ちてた」
冬樹は真っ赤になって、おろおろし始めた。「や、やめて……見ないで……」
そして彼はうららの脇をすり抜けようとした。
うららはとっさに冬樹の腕を掴んだ。
勇輔が叫んだ。「逃げるな、冬樹。俺がこの手紙を読み終わるまで、動くな」
「先輩……」身体を震わせながら冬樹はその場に観念したように座り込んでうずくまった。
「……あたし、先生に生物の課題について聞いてくる」
うららは誰にともなくそう言って、その場を離れた。
「済まなかった、冬樹」
手紙を読み終わった勇輔はそう穏やかに言い、冬樹の両肩を支えて立たせると、そっと背中から彼の華奢な身体を抱きしめた。
「早く伝えるべきだった。おまえに。俺の気持ちも……」
「……」
冬樹は声を殺し肩を震わせて泣いていた。
「おまえにあんな音楽を弾かせる程、おまえの心を痛めつけて、追い詰めてたんだな、俺……」
勇輔は冬樹の身体を自分の方に向け、両肩に手を乗せた。
「せ、先輩……」
勇輔は冬樹に顔を近づけ、そっと唇を重ね合わせた。
勇輔が口を離すと、冬樹は真っ赤になって勇輔の胸に頬を押しつけながら小さな声で言った。「だ、誰かに見られちゃう……」
勇輔はにっこり笑った。「誰もいねえよ。それよか、俺、おまえの気持ちを今確かめてえんだ」勇輔は冬樹の目をじっと見つめた。「応えろよ、冬樹」
おろおろしながら狼狽する冬樹をぎゅっと抱きしめ、勇輔はまた彼の唇を自分のそれで塞いだ。
冬樹も勇輔の背中に腕を回し、きゅっと力を込めた。
ほかには何の音も聞こえないほどの土砂降りの雨が降り続いていた。