海斗と幸代-9
一通り商品の説明を終えた幸代。宏も気さくに色々質問しながら幸代の話を聞いた。
「まぁ大手さんと違って大量には買ってやれないけどな。」
「いえ、そんな事ないですよ。」
ニコッと笑う幸代。幸代の説明は巧い。宏が真面目に話を聞くのは商品に対して勉強してきている事を思わせるからだ。大抵の質問にはきっちりと答えられる幸代に感心すらしている。
「師匠が適当だと弟子は優秀になるもんだな、海斗君!」
「アハハ!まだまだだよ。並だよ、並!」
並と言われて幸代が反論しないのは表には出さないが海斗の商品知識はハンパでないからだ。釣りばかりしてる割にはいつ勉強しているのかと疑問に思う程に知識がある。能ある鷹は爪を隠す…、適当を装っているが実はそうではない事を幸代は知っている。
「まぁ海斗君には色々世話になってるからな!多少適当でも信頼してるからな!」
「おっちゃんだって適当だろうがよ♪幸代、おっちゃんな、昔店の売上勝手に持ち出してよく風俗行ってたんだよ。」
「はっ…??」
「こ、こら、余計な事を…」
焦る宏にニヤニヤしている海斗。
「でな、奥さんにバレてさ、店の前で一晩パンツ一丁で正座させられたんだよ!」
「そうなんですか…」
シラ〜っとした目で見つめる幸代。
「ね、ネーチャン、そんな目で見るなよ…」
幸代の冷たい視線から逃れようと顔を背ける宏。それから海斗としょーもない話で盛り上がり、そして宮島スポーツを後にした。
「ホント、結局はふざけた話で終わるんですね。」
溜息をつく幸代に海斗は意味ありげな表情を浮かべて言った。
「まぁな。でも俺は売上が小さいからといって仕事を適当にした事は一度もないけどな。」
そう言って窓の外を見つめた海斗を幸代は不思議に思った。
「いくら尽くしても大手なんて契約内容次第で容赦なく切られたりする。でもな、小さいながらも頑張ってる個人店はこっちの努力をずっと覚えていてくれるんだ。少しばかりライバルの契約内容が良くても簡単には変えないでくれるんだ。人と人の繋がりを大切にしてくれる。人間として成長させてくれるんだよ。ビジネスライクになりすぎるのは良くない事だ、幸代。」
「は、はい…。」
正直何を言っているのか分からなかった幸代だが、何か引っかかるものを感じていた。