海斗と幸代-7
車に乗り次の得意先に向かう海斗達。商品についての意見交換や価格交渉など、そういう商談が見たかった幸代は車の中でも不満げな顔をしていた。
「何だオメー?つまんなそうな顔して。」
「別に何でもありません。」
憮然とした表情で答える。
「どーせもっと中身の濃い商談がしたかったとか思ってんだろ?」
ギクッとした幸代。
「何で分かったんですか!?」
「バ〜カ。お前すぐに顔に出るからなぁ。顔に書いてあるよ。」
「本当ですか??」
「ああ。宮本さんだって気付いただろ、きっとな。」
「…」
そんなに分かり易い顔をしていたと思うと恥ずかしくなる。
「まー、素直って言えば素直なんだろうが、時として失礼に当たる場合がある。俺もたくさん資料は準備してきたさ。しかしな、今日の宮本さんはあまりそれを望んではいなかった。釣りの話がしたくて仕方ない様子だったろ?だから釣りの話をしたんだ。今回の新店に関してはあまり乗り気ではないようだ。恐らくそんなに重要な店ではないんだろう。だから任せると言って来たんだろう。そこでだ!俺がとんでもない売り場を作ってみせたらどうなる?俺の信頼は益々上がる。商談で細かな制約を受けたらこっちのやりたい事もなかなか出来ないだろ?だから俺にとってはさっきの緩い商談は大チャンスなんだよ。今度の新店でアントニーの度肝を抜いてやる!!俺は俄然やる気が出たけどな。」
「…、計算通りだったんですか?」
「いや?あまり乗り気ではないようだと感じた時に方向転換したのさ。なるべく宮本さんの気が変わらないように話を仕事から離そうってな。」
海斗の顔を半信半疑で覗き込む幸代。
「本当ですか〜?」
「あっ!テメー疑ってるな!?まぁいいさ。結果で見せてやるよ。それより着いたぞ?ここはもうお前に任せたよな?俺はついていくだけだ。好きに商談してこい。」
次の得意先は街の個人店だ。個人店は殆ど幸代に任せていた。海斗は幸代の後ろについていく。