海斗と幸代-6
「そうか〜、昨日行ったのか。しかしあんな台風の中、良く行ったよな!ハハハ」
宮本の言葉に幸代が入り込む。
「言ってあげて下さいよ〜。危ないから止めた方がいいんじゃないかって言ってるのに聞く耳持たないんですから。」
「うるせぇ。」
吐き捨てるように言った。
「逆に止められると意地になって行こうとするのが海斗君だもんな?あんな台風の日に誰もが釣れないであろうと思われている中でもし釣り上げてこそ、みたいな考えだろ?」
「さすが宮本さん!分かってるね!」
大手取引先の年上の部長相手にすっかりタメ口になった海斗に幸代はヒヤヒヤする。
「海斗君、次はいつ行くんだ??」
「終末の日曜かな??」
「あ、俺も行くわ。土曜日にでも電話するよ。」
「OKっす!」
殆ど友達同士の会話だ。
「部長、こんな人と一日いて疲れないんですか??」
「ん?ハハハ。田崎君はいつも海斗君と同行しているが、一人で外回りした時に分かるさ。」
「え〜?私は一人の方がせいせいすると思いますけどね。」
「テメー、いつもそう思ってたのか!?」
「ハハハ!まぁまぁ抑えて。」
宮本が海斗を宥める。
「海斗君と一緒に居るだけでそれ以上に得るものが多い事は一人になってみないと分からないんだよ。」
「そーそー、宮本さんなんか釣り下手くそだからボウズの日も多くて、手ぶらで帰ると家族に馬鹿にされるからって良く俺の釣った魚を分けてやってるんだぜ!?」
「お、おい!それは内緒にしてくれよ〜。」
「…。」
完全に釣りの話に興味がない幸代はもはやどうでも良かった。その後始まった釣り談議に偉く退屈してしまった。
「てな訳で宜しくね、商品部長さん!」
「お前、こんな時だけ部長扱いしやがって!ハハハ、じゃあレイアウト組んどくから企画考えといてくれよな?」
「OKっす〜!じゃあまた。」
ようやく商談が終わった。幸代はもっともっと真剣な商談がしたかったが、殆どが釣りの話で終わってしまった為に若干不満げな顔で商談室を出た。