海斗と幸代-5
今日一番の訪問は県内10店舗の店を構える県内有数のスポーツ用品専門店のスポーツアントニーの本部だ。立派な本部だ。昨年新築して建て替えた為、近代的な造りで本当に綺麗だ。
「こういう所で働いてみたいもんですね〜。」
幸代はここに来ると、仕事してる〜!といつも思えた。
「お前、どんたけ目を輝かせてんだよ。騙されやすいタイプだな。」
「何ですかそれ〜!」
「そんなにここに来たきゃ早く一人前になれ。いつでも担当変わってやるわ。」
「本当ですか!?頑張ろっと♪」
海斗は苦笑いしながら本部の中へ入った。商談室に入ると商品部長が現れた。
「お早う、海斗君」
「おはようございます、宮本さん。」
「おはようございます。」
海斗に続き幸代も挨拶する。
「新店のアイテムは選んできてくれたかな?」
再来月にオープンする新店の商品提案を依頼されていた。海斗はパソコンを出し商品を確認してもらう。
「基本的に女性モノはファッショナブルで値段も高めの商品、子供ものも受けそうな割と派手目のデザインで値段も高め、一般男子用にはハイアンドローで揃えてみました。」
宮本はニヤリと笑う。
「さすが。指示しなくてもこっちの戦略はしっかり把握してるね。」
「何年仕事一緒にしてると思ってるんですか。宮本さんの考えてることぐらい分かりますよ。休みの日まで見たくない顔見なきゃなりませんからね!」
「おい、それは内緒だろ!」
「あー、そうでしたね!」
急に堅苦しさが抜けたように思えた。
「休みの日、一緒に何かしてるんですか??」
幸代が不思議そうに聞いた。
「何でもねーって。」
海斗が軽く流そうとしたが気になって仕方ない幸代は収まらない。
「だから何してるんですか??」
「オメーもしつこい奴だな〜。何でもいいだろうが。」
「…釣り??」
見越したかのようにサラリと言った。
「オメー、分かってんならいちいち聞くなよ。でも良く分かったな。」
「だって海斗さん、仕事か釣りしかしないじゃないですか。わざわざ勿体振る事でもないでしょうに。」
「るせぇなぁ…。」
二人の会話に宮本が笑い出す。
「ハハハ、君らはいいコンビだな。海斗君の嫁さんになってやったらどうだ?」
「!?嫌です。絶対!!」
「俺だってヤダわ!」
商談そっちのけで痴話喧嘩が始まった。つまらない小競り合いを宮本は笑いながら見ていた。
「まーまー、俺も止めた方がいいと思うよ。あそこまで釣り好きだと絶対苦労するからな。」
ようやく小競り合いを止めた。興奮気味の幸代に言った。
「まー、仕事上、必要以上な親密さは色々と面倒な事があるからね。オフの時とは言え商品部長の私と仕入れ先の海斗君があまり親密になりすぎると疑われる事もあるだろ。だから休日に良く釣り場で顔を合わせる事は伏せてあるんだ。」
「あ、そう言う事ですか。」
「怪しまれるったってホモ系じゃないからな??」
「分かってますよ!!」
一見水と油のような海斗と幸代だが、なかなかテンポの良い小競り合いに宮本は思う。
(この二人、絶対合うよなぁ。)
と。