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鍵盤に乗せたラブレター
【同性愛♂ 官能小説】

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男女交際-5



 その夜うららは勇輔の部屋を訪ねた。ノックもせずにドアを開けてずかずかと中に入り、床に膝を抱えて座り込んだ。
「こら、俺、入ってもいいなんて言ってないぞ」
「入っちゃいけないこと、やってたの? 一人エッチとか」
「あほかっ!」

「あのさ、あたし今日デートしたんだけど、冬樹と、予定通り」
「おお、どうだった?」机に向かっていた勇輔は椅子をぐるっと一回転半回して身体を妹に向けた。
「なんか……兄貴のことばっかり訊きたがるんだよね」
「俺のこと?」勇輔は自分の鼻を人差し指でぐいっと押さえた。「そいつ、どんなやつなんだ?」
「おとなしい地味男」
「なんでそんなのがいいんだよ、おまえ」
「自分のペースで付き合えるから。それに何か彼には色気を感じるんだよね」
「色気?」
「うん。他の男子にはない雰囲気というか……。でもまじめだし、誠実だし、礼儀もわきまえてるよ。それに、何より彼の弾くピアノがすっごく素敵なんだ」
「ピアノ?」
「学校でいつも練習してるみたい。今も」

 夏休み中の部活の時間、泳いでいる最中に、音楽室からたびたびピアノの音が聞こえていたことは勇輔も気づいていた。
 もしかしたら、あいつ? と勇輔は思った。先週の土曜日、自分が校庭で声を掛けた一年生の男子、あれがその冬樹だったのかも、と彼は考えたりした。

「そう言や、音楽室から聞こえてんな、ピアノの音」
「たぶん冬樹が弾いてるんだよ」
「プールは音楽室のすぐ向かいだかんな。ここんとこほぼ毎日。俺たちが部活やってる間中、ずっと聞こえてっけど」
「そうだね、確かに」
「あれは、そいつが弾いてたのか……鷲尾っちじゃなかったんだな」
「上手でしょ? そう思わない?」
「俺は音楽にゃあんまり詳しくねえが、確かにうまいかもな。で、その冬樹ってやつ、名字、なんていうんだ?」

「月影。月影冬樹だよ。ちょっとかっこよくない?」

「な、なんだと?!」
「何驚いてるの?」
「そいつ、もしかして姉ちゃんがいるだろ。春菜っていう」
「そうだよ。よく知ってるね」
「去年の三年の部員で、俺、ケンタ先輩って呼んでた人がいたんだけど、その彼女が春菜さんなんだ」
「知ってる。それ前に兄貴から聞いた。忘れてたね? でも奇遇だよね」
 勇輔はばつが悪そうに後頭部をぼりぼりと掻いた。「めちゃめちゃ絵が上手な先輩なんだぜ」
「それも知ってる。校長室の前に掛けてあるおっきな額の絵、その春菜先輩が描いたんでしょ?」
「そう。すげーよな。夕日に輝く川の絵。吸い込まれそうだよな」
「うん。わかる。水のきらめきと、紫色の空の色……。あたし入学してあの絵見た時、しばらく足が動かなくなってたもん」

 そうかそうか、と腕をこまぬいて何度も頷いている勇輔の顔をうららは覗き込んだ。
「会ったことあるの? その春菜先輩に」
「一度だけな。ケンタ先輩とデート中だった」
「どんな人?」
「眼鏡掛けておとなしい感じだな」
「冬樹も眼鏡掛けてるよ。姉弟なんだね、やっぱり」
「そうか、春菜先輩の弟なんだな……」


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