〈狂宴・後編〉-14
『なぜ目を逸らすんじゃ?なぜ目を閉じるんじゃ?しっかりと景子先輩を見るんじゃよぉ!グハハハハ!』
タムルの力を借りる事で、サロトは春奈を絶望の底に突き落とし、人間らしい感情の全てを剥ぎ取って、腑抜けた肉人形に仕立てようとしている。
奈和も優愛も、春奈の為に生け贄にされたのだ。
そして景子も、人間としての誇りまでもが引き剥がされていく。
景子を責め立てる事は春奈を責めるのと同義なのだと、もう知られてしまっているのだから。
『ほぅら、春奈様に自分は何なのか自己紹介しなさい。まさか…格下の貴女が、牝豚麻里子と同じなんて言わないわよねぇ?』
「ぐぅッ!!くく……!!」
この状況下に於て、景子が自らを貶めるのかをタムルは試した。
自分で自分の品格を汚し、人間である事すら否定出来るのかを、確かめようというのだ。
『……ねえ、さっきから私が貴女を“何”て呼んでたかしらねぇ……?』
吹き出しそうに頬を膨らませ、タムルは屈辱的な言葉を発するように囃し立てた。
更には苦しそうな優愛の呻き声と身動ぎまで重なり、景子から躊躇いを削っていく。
漆黒の闇の中に、性家畜へと転がり落ちろと笑う大きな口が、景子の前でゲラゲラと笑っていた。
「わ…私……私は…んぐぐッ……く……糞虫……ぎいぃ……」
「ッ………!!!」
絞り出すように吐かれた言葉は、しっかりと春奈の耳にまで届いた……やはり、自分一人だけで戦うべきだったと悔やむ春奈の前で、景子はタムルが放った丸見えの罠に、自ら落ちた……ここまで虐めなければ気が済まない鬼畜達への戦慄と、その渦中に引きずり込まれた景子の悲劇的な姿に、春奈は在りし日の麻里子が重ねて見えていた……。
『アハハハッ!貴女って糞虫なのぉ?あの牝豚の糞から這い出た虫だったのね?どうりで麻里子みたいな生意気な奴だと思ったわ』
「がぎぎッ…!!」
麻里子を侮辱すれば、景子は勿論、春奈も虐める事が出来る。
呪われた銭森姉妹の頂点に立った者は、この場に存在していなくても、言葉での責め具として使われてしまう。
それは死人に鞭を打つのと同然の、非・人間的な言葉の暴力であった。