キレイになってラブラブデート大作戦-1
そして、決戦を迎えた、とある夏の朝。
音を立てないように玄関のドアを閉めた私は、門口からそろそろと足を踏み出し、ヒールでアスファルトを鳴らしてから、思いっきり伸びをした。
天慈くん、もうすぐ到着する頃かな。
小さなストロー素材のクラッチバッグからスマホを半分だけ出して、時間を確認すると、再びまたしまう。
7時をまわったばかりの土曜日の朝は、町全体がノンビリとしている。
対して私は、ついに今日という日を迎えたんだと思うと、武者震いなのか、膝がプルプル震えていた。
輝くんが休みの朝は、家族揃ってちょっと遅い朝を迎えるのだけど、ついに「キレイになってラブラブデート大作戦」が始まった今朝はいつもより早く起きたのだ。
ちなみに、このセンスのない作戦名は天慈くんがつけたもの。
今までオシャレなイケメンだと思っていた彼に、オネエ疑惑が浮かび上がったせいか、この作戦名のこっ恥ずかしさは2割増し。
だけど、彼がいなくてこの作戦は遂行できないので、不本意ながらもこう呼ぶことになった。
作戦の概略は、輝くんと瑠璃の朝食を用意し、私は美容院「blue tears」に向かう。
その間に天慈くんが家に来て、瑠璃を預かる。
輝くんには「今度保育所で実習があるから、瑠璃と一日遊びながら子供への接し方を学ぶ」なんて、いかにもありそうな名目で瑠璃を誘う手はずになっている。
天慈くん(20)と瑠璃(5)も、ここでデートになる。
そして、一人残された輝くんには、天慈くんから私からの伝言を聞かされるのだ。
――10時にS駅の西口で待っています、と。
……よし、完璧。
ただ、美容院の予約は8時半からだから、もう少しゆっくり家を出てもよかったけど、今日は朝から輝くんと顔を合わさない方がいいと思ったから、彼が起きる前に朝食を用意してから、家を出た。
だって、今日は特別な日だから、いつもの生活感溢れる姿を見られたくないんだもの。
とびっきりキレイに変身して、待ち合わせ場所に現れて、輝くんをドキッとさせてやるんだから。
早くも輝くんの驚く顔が目に浮かんで、ニヤニヤしてしまう。
天慈くんのサポートを受けながら始まった「キレイになってラブラブデート大作戦」。
ニヤついた顔で空を仰げば、抜けるような青空。
どこからか聞こえてくる小鳥のさえずり。
うん、今日はいい日になりそうだ!