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N県警察
【サスペンス 推理小説】

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N県警察〜青い飴〜-2

 ただれた唇。紫色に染まった指。口内からは独特のアーモンド臭。青酸試験を行うと強アルカリ性を示した。
 救急隊員や、これらの検視を行ったN県警刑事部鑑識課・真田検視官は死因を青酸中毒と断定した。
 青酸中毒。シアン化カリウム、つまり青酸カリを体内に取り込んだ事による中毒死という事だ。
  赤坂と鈴木の証言、更に飴の欠片が散財していた事から、飴玉には青酸カリが混入されていた。N県警捜査第一課課長・里崎はそう結論付けた。
 青酸カリとアーモンド臭はよくセットで覚えられるが、元来青酸カリは無臭だ。人間の胃に入り、胃酸と化学反応を起こして初めて臭いを発する。
 問題はこれがいつ、何処で、誰を殺害する為に仕込まれたかという事だ。
 考えろ。
 赤坂は冷静だった。同僚を殺された。それも白昼堂々と警察官を。
 確かに進藤は人当たりはあまり良くなかった。職務怠慢だと、鈴木に怒られていた時もあった。
「反省しろ!」
そう何度も。
そんな進藤だったからこそ、公園に落ちていたであろう青酸カリ入りの飴玉を口に入れ、事態を招いてしまった。
 それでも決して人に殺意を抱かせる人間ではなかったと思う。
 飴を拾ってきたのは少年だ。仮に犯人が、飴玉の内部に注射器のようなもので青酸カリの粉末を注入し、再び紙袋に包んで公園内に放置していたとしても、標的の人間がそれを口に運ぶ確率は限りなく0に近い。
 ならば少年が犯人か。
 いや、まだ10歳前後の子供だ。青酸カリの殺傷能力を把握しているとも思えないし、第一手に入れる手段が皆無だ。
 つまりはこうゆう事だ。無差別殺人。
 誰でも良かったのだ、被害者は。
 青酸カリの殺傷能力の実験台か、はたまた平和なN市郊外に混乱を巻き起こさせたいが為の愉快犯か。
 赤坂は参考人として、青森公園前派出所管轄の下水流署まで送致されるパトカーの中で、そう考えた。
 職務歴がまだ地域課交番勤務のみの26歳でも推察出来るならば、捜査のプロ・刑事部も赤坂に言われずとも当然「無差別殺人」を視野に入れていた。
 N県警は同日夕方、下水流署に『青森公園における劇薬物使用の無差別殺人事件捜査本部』を設置した。
 捜査本部は、先ず被疑者の青酸カリ入手の手段に着目した。それによって足取りが掴めれば、被疑者特定に繋がるからだ。
 青酸カリの使用期限は3ヶ月だ。それを過ぎれば無毒化する。県内の3ヶ月前までの薬局の購入記録を徹底的に洗った。青酸カリを購入する場合は氏名、使用目的等を記入しなくてはならない。被疑者はそれを知っていたか、周辺の薬局は空振りに終わった。工場、化学研究所等もしらみつぶしに当たったが、結果は同じだった。
 次は飴と公園周辺の状況に期待した。
 男児によると、飴はパックの封を開けて中から1つ取り出された状態だったらしい。交番に届けられた時も、真新しかった。
 つまり飴は雨風には晒されていないという事だ。
 下水流市は3日前に降水が記録されている。
 ならば2日前だ。被疑者は少なくとも2日前に公園に青酸カリ入りの飴を放置したのだ。
 赤坂と鈴木は、2日がかりで公園周辺の防犯カメラに映っていた全ての人物と、交番勤務時の不審者を照らし合わせた。
 それでも見つからなかった。飴が置かれていた場所は、防犯カメラの死角だった。
 事件から4日目の夜、赤坂は2回目の聴取を下水流署で行った。
 その際に、聴取担当の刑事が書類を机から落とした。
 目に入った。
 赤坂と鈴木の身辺が記された調書だった。
 『鈴木勝広………妻・芳江………娘・凪』
 経歴も記されていた。N県警第一機動捜査隊、鑑識課など、赤坂の好奇心をくすぐる単語がずらりと並んでいた。
 と、備考欄にある文が書かれていた。赤坂は思わず書類を手に取った。
 内容は、鈴木の娘は3年前に事故死しているという旨だった。
 思い出した。3年前、赤坂は警察学校時代に研修生として、この下水流市の交番に通っていた。あの時も一時的とはいえ、鈴木の部下だった。


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