真夜中のファミレスにて-1
恋の駆け引きなんて正直めんどくさい。そんな事してまでこっちを見て欲しいなんて思わないよ。
『また?』
目の前の彼が怪訝そうにあたしの手元を見る。
あたしは、彼の言葉を受け入れてからタバコに火をつけた。
『お前さ、その年でこの量はヤバイって』
底が見えなくなった灰皿。
それを見る彼。
何が言いたいんだろう。
天井に向かって煙を吐き出す。煙はゆっくり宙を漂って、消えた。
この店の中には誰もいないと言ってもいい程に客がいなかった。外は真っ暗で月の灯りが1つ眩しく輝いている。時々走り抜ける車のライトに負けそうで。
この時間帯のファミレスが1番好き。
人の目を気にしなくても気にしてしまうあたしにとっては最高だ。
『すいません、ビール』
隣を通りかかった店員にあたしは言った。
やっと喋ったかと思えばビールかよ。
彼の思っている事は聞かなくても顔を見なくても分かる。
『飲む?』
運ばれてきたビールを前にあたしは彼の目を見ずに言った。あたしなりの優しさだ。
『飲まねぇよ』
『あそ』
ことごとく、あたしの期待を裏切る。少しでもこの冷たい空気を和らげようとしてやったのに。
あたしはビールを喉に流した。ジョッキ越しには彼がサラダを摘むのが見える。
ああ、そう言えばサラダ好きだったなと思い、一気に懐かしさが込みあげた。
『で?用はなに』
『いや…元気かなと思って』
サラダの輪切りの卵を箸で避けながら顔を上げずに彼は言った。
その光景があまりにも変わってなく、自然とホホが緩む。
『別に…元気だけど?』
彼が顔を上げた。
『そっか…それならいいんだ』
『なんなの?さっきからさぁ。元気かどうかなんてあんたに関係ないじゃん』